平成28年8月16日(火)  目次へ  前回に戻る

銭湯代を払ったあと、ジュース類を飲む資金がないと、夏場の生命力は尽きることがある。

「職場」に行ってきました。一日じいっとしていて何もしませんでしたが、やっぱり身心ともにジリジリと灼きつくような圧迫が。
特別な身心の強さがないと、ちょっともうムリな感じがひしひしと。

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五代のころ、ある商人が河南・開封に商談に来て、汴河に船を繫いでいた。

船べりに何か近づいてきたので、使用人に網を以て掬わせたところ、

獲一巨亀。

一巨亀を獲たり。

一匹の大きな亀を捕まえた。

「これは美味そうだなあ」

と何でも食う文化ですから、さっそく

於竈火中煨之。

竈の火中にこれを煨す。

船の厨房のカマドの埋め火の中に亀を入れて、いぶした。

その晩は商用で陸に上がっていたましたので、亀は翌朝までぶすぶすといぶされておりました。

明日取視皮殻已燋矣。払拭去灰置於食牀上。

明日取りて視るに、皮殻すでに燋げたり。払拭して灰を去りて食牀上に置く。

翌日取り出してみると、もう甲羅は真っ黒に焦げている。灰を拭い去って、テーブルの上に置いた。

主人と使用人が集まって来まして、「さあ、食おう」と調味料や各自の前に取り皿も用意した。

亀の甲羅の隙間から筯(ハシ)を突き刺し、これをこじ開けて肉を取り出そうとして、使用人頭がハシを「ぶちゅ」と突き刺したその瞬間―――!

伸頸動足、徐行牀上。其生如常。

頸を伸ばし、足を動かし、牀上を徐行す。その生くること常の如し。

亀は「ぶにゅ」と首を出しました。そして足も出して、テーブルの上を歩き出した。その活動は(いぶす前と)同じであった。

「あんだけ焙ったのに生きていたのかあ」

「がんばったんでしょうね」

「なんだかすごいなあ」

衆共異之、投於水中、遊泳而去。

衆ともにこれを異とし、水中に投ずるに、遊泳して去りぬ。

みんな不思議な感じがして、この亀を食べるのを止めて水中に放してやった。すると、亀はゆうゆうと泳ぎ去ったのであった。

突き刺したハシはどこかで抜いてやったのだと思います。

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五代・杜光庭「録異記」巻五より。

ああ、「淮南子」にいう、大いなる原始の世に、

介潭生先龍、先龍生玄亀、玄亀生霊亀、霊亀生庶亀。凡介者生於庶亀。

介潭は先龍を生じ、先龍は玄亀を生じ、玄亀は霊亀を生じ、霊亀は庶亀を生ず。およそ介ある者、庶亀より生ずるなり。

「水中にひそむ甲羅あるもの」の中から「初期の恐竜」が現れ、「初期の恐竜」の中から「巨大な黒い亀」が現れ、「巨大な黒い亀」の中から「精神を持つ亀」が現れ、「精神を持つ亀」の中から「量産型亀」が現れて、現代の甲羅ある生物はこの「量産型亀」から派生したものなのである。

と。

亀は、獣の中における麒麟、鳥の中における鳳凰、人間の中における聖人、鱗あるものの中における龍のように、甲羅あるものたちの「長」なのだ。

だからたいへん強靭な生命力と精神力を持っているのです。なんという立派な生物であろうか。わしにもこの亀のような強さがあれば、職場でもやっていけるのカモ・・・しかしわしは何百年も隠者として生きてきているとはいえ、対人関係には弱く、亀のような生命力は無いのじゃ。あと一二日が限界か・・・。

 

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