平成28年8月17日(水)  目次へ  前回に戻る

どうせならキノコやコンブやカツヲダシなどうまみのあるものも一緒に煮てほしいでぶう。

お盆も終わり職場の人口密度が増えてきますと、雰囲気もどんどん厳しくなってくる。これから、晩夏の大弾圧、初秋の大弾圧、秋の大弾圧などが始まるのであろう。

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今日は暑かったんです。しかし、少し日が短くなってきたような感じがいたしまして、秋はもう少しのところまで来ているんだなあ、と汗を拭きふき思ったものでございます。

秋といえば、キノコです。しかしキノコには気をつけなければなりません。清の時代のことでございますが、四川の某村でキノコ中毒で何人かの村人が、

食菌中毒死。

菌を食らいて毒に中して死せり。

キノコを食って中毒して死んでしまったことがあった。

この村に住む張三という男は、ちょうどそのとき所用があって遠出しており、この事件を知らなかったのであるが、数日後、村に帰ってきた。

村に入る手前、小道が森の中で特に暗くなるあたりで、

「張さん」

と呼び止められて、振り向くと、そこに隣に棲む鍾六児が立っていた。

もともとそんなに景気のいい男ではないが、この時は、特に元気が無さそうに見えた。

「こんなところで、どうした?」

と問い返すと、六児は、

指山中菌味甚佳。

山中の菌の味はなはだ佳なるを指さす。

森の中を指さした。そこには、味がいいので知られたキノコ(とりあえずマイタケとしておきます)がたくさん生えていた。

「お、マイタケじゃないか。これは旨そうだぞ」

遂摘百十枚、以襟盛帰。

遂に百十枚を摘み、襟を以て盛りて帰れり。

最終的に百数十本を採集して、服のあちこちに入れ、襟元までいっぱいにして家に帰った。

指だけさして、そのあと六児の姿が見えなかったのも変な気はしたが、まあ先に帰ったのだろう、ぐらいに思っていたのである。

家に着くと兄貴がいた。(後で知ったことだが、兄貴は隣家の葬儀を手伝いに来て、張三の家で休んでいたのであろう)

兄貴は張三の服からキノコがはみ出しているのを見ると、

此菌毒不可食、郷中食此已死数人。汝従何処得之。

この菌、毒にして食らうべからず、郷中これを食らいてすでに死すること数人なり。なんじ、いずれの処よりこれを得たる。

「ばかもん、このキノコはマイタケによく似ているが、ひどい毒を持っていて食うことができんやつだ。この間から村の衆がこれを食って、もう数人亡くなっているのだぞ。おまえはいったいどこでこれを手に入れてきたのだ?」

と怒鳴った。

「え?」

よくよく見ると、マイタケには似ているが毒々しい赤い斑点があり、どうやら毒キノコのようである。

「ほんとだ。あぶねえな。いや、村に入る直前のところで鍾六児のやつがこれを指さしたんで、ほいほいと採ってきたんだ。あのやろう、どういうつもりでおれにこれを指さしたのか・・・」

と、

張三具以告。

張三は具さに以て告ぐ。

張三はそのときのことを具体的に話した。

それを聞くと兄貴は眉をひそめて、

「六児が?」

と訊きなおした。

「そ、そうだけど・・・」

「ばかな・・・」

兄曰、鍾六児正中菌毒死。殆見鬼耶。

兄曰く、鍾六児、まさに菌毒に中して死せり。ほとんど鬼を見たるか。

兄貴が言うには、

「鍾六児のやつは、まさにキノコの毒に中って死んだばかりなのだ。おまえはその死霊に会ったのだ!」

「そんなバカな。あいつは確かに・・・」

張三不信、詢諸其隣、果然。

張三信じず、これをその隣に詢(き)いて、果たして然り。

張三は信じようとしなかったが、隣の鍾家を訪ね、六児の死骸を見せられて、ようやく何が起こったのかを理解したのだった。

さて。

嘗聞縊鬼、溺鬼、倀鬼討替代。

嘗て、縊鬼、溺鬼、倀鬼の替代を討(もと)むるを聞く。

世間でよく言われるのは、首を吊ったひとの幽霊、溺れたひとの幽霊、それにトラに食われたひとの幽霊は、代わりを見つけないとその場から逃れらないため、他人を誘って同じ原因で死なせようとする、のだということである。

不意食菌中毒亦然。

意(おも)わざりき、菌を食らいて毒に中するもまた然らんとは。

キノコ中毒で死んだやつも、同じように代わりを見つけようとするのだとは、これまで知らなかったなあ。

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清・朱海「妄妄録」巻八より。

わしも早いとこ代わりを見つけなければならないような気がしているところ。

 

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