平成28年2月14日(日)  目次へ  前回に戻る

そのうち春になるんだろうけど・・・。

個人的な事情にてしばらく休んでおりました。明日からもまた少し休みます。

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この世のことは、どういう仕組みになっているのであろうか。

魚網之設、 魚網これ設くるに、

鴻則離之。 鴻、すなわちこれに離(かか)る。

 魚捕りの網を仕掛けたら、

 でかい雁がそれにかかっていたぞ。

と、「詩経」邶風「新台」にある。これは斉の国から衛の世子のもとに嫁いできたはずの姫君が、世子のおやじの宣公にみそめられてその妃にされてしまった・・・という事件を批判しているのだ、と伝統的には解されているのですが、おそらく違って、農耕儀礼の中の予祝祭事(前祝い)ではないかと思うのですが、閑話休題。

このように、この世のことは、謀ったようにはならないのである。思ってもみなかった結果が現れることがある。

あるいは、「説苑」正諫篇にいう、

―――呉の王さまが楚の国を征伐することにした。そして臣下には「このことを止めようとするなら、死を賜うであろう」と申し達した。

するとその日から、どういうわけか少孺子(「ちび小僧」)と呼ばれる側近(←おそらく道化役の侏儒であろうがここではコドモとして訳します)が、はじき弾を手にして宮中の庭園に野宿を始めた。

露濡其衣、如是者三旦。

露、その衣を濡らし、かくのごときこと三旦。

夜露がその服を濡らしたが、このようにして三日目の朝を迎えた。

呉王、そのようすを見て、少孺子を召して問うた。

何苦濡衣如此。

何ぞ苦しみて衣を濡らすことかくのごときか。

「服を濡らして苦しんで、何をしておるのだ?」

少孺子答えて曰く、

「王ちゃま、聞いてくだちゃい。おいらはさっきまで、鳥を捕ろうと思って弾き玉を持って庭園の中に潜んでいたのでございまちゅ。

すると、まず、

園中有樹、其上有蝉。蝉高居悲鳴飲露、不知蟷螂在其後也。

園中に樹有り、その上に蝉有り。蝉は高きに居りて悲鳴し飲露するも、蟷螂のその後に在るを知らず。

庭園の木の上にセミが一匹おりまちたのでちゅ。セミは高い樹上にいて、露だけを飲んで悲しく鳴いておりまちて、後ろからカマキリが迫ってきているのに気付いておりませんでちた。

次に、

蟷螂委身曲附欲取蝉、而不知黄雀在其傍也。

蟷螂、身を委ね曲附して蝉を取らんと欲し、而して黄雀のその傍に在るを知らず。

カマキリはからだをひねり、枝にはりついて、じりじりとセミを捕まえようと迫っておりまちて、後ろから黄スズメが近づいてきているのに気付いておりませんでちた。

そちて、

黄雀延頸欲啄蟷螂、而不知弾丸在其下也。

黄雀は頸を延ばして蟷螂を啄まんとし、弾丸のその下に在るを知らず。

黄スズメはくびを延ばしてカマキリをついばもう、としていて、おいらが弾き玉を持って木の下で狙っているのに気付いておりませんでちた。

うう。

此三者皆務欲得其前利、而不顧其後之有患也。

この三者はみなその前利を得んと欲するに務めて、その後の患(うれ)いあるを顧みざるなり。

三者とも、目の前の利益を獲ようとするのに一生懸命で、後ろから心配ごとが迫ってきているのを振り返ろうとしないのでちゅ」

これを聞きまして、呉王はおっしゃった。

善哉。

善きかな。

「なるほど、よくわかった」

そして三日前に出陣させた軍に、引き上げるよう命令を下したのであった。

―――三日も庭園でこんなの見続けていたはずはないので、ウソなのは明らかですが、この世のこと、こちらの目には見えてないいろんなことが背後では展開されていて、一寸先にはどんなことが起こるのか、予想しきれないものなのだ。

されば曰く、

魚網之設、鴻則罹其中。蟷螂之貪、雀又乗其後。

魚網の設くるや、鴻すなわちその中に罹る。蟷螂の貪るや、雀またその後に乗ず。

魚の網を仕掛けたら、でかい雁がその中に罹っていたり、カマキリが狙っていると、スズメがそのまた後ろから狙っていたり。

機裡蔵機、変外生変。智巧何足恃哉。

機裡に機を蔵し、変外に変を生ず。智巧何ぞ恃むに足らんや。

仕掛けの中にまた仕掛けがある。異変の外からまた異変が起こる。われらの智慧や技巧など、何の役に立つだろうか。

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「菜根譚」前集・第百四十九則。株価をはじめ、この世では予想もつかない事件が起こるもんらしいんです。あっちの世界からは手に取るように見えているのかも知れませんが・・・。

 

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