平成26年4月9日(水)  目次へ  前回に戻る

 

シゴト爆弾の落ちている場所はわかるのに、そこを避ける方法がわからないのだ・・・。

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南朝の宋の初めごろ(420年代であろう)、淮南郡で、

有物取人頭髻。

物の、人の頭髻を取る有り。

何物かが、人の、頭頂部で髪を束ねた「もとどり」をむしり去っていく事件が多発した。

被害者は日暮れの暗がりや夜の闇の中で突然襲われ、犯人の姿を見ることも無く「もとどり」だけをむしりとられるのである。それ以外ひとを傷つけるでもなく他のモノを盗むでも無いので、生き死ににかかわるという事件ではないのであるが、チュウゴク(特に古代・中世のころ)では髪には人間の霊力が宿ると観念されていたから、ひとびとはこの事件を大いに恐れ気味悪がって、社会不安を醸すまでになった。

時に淮南太守・朱誕なるひと、

吾知之矣。

吾これを知れり。

「わしはそれがナニモノのしわざか、知っているぞ」

と言い出した。

さらに、

「おそらくソレを知っているのはわしだけであろう。わしが退治してやる」

と豪語したのであった。

朱誕は自ら町中を見て回ったが、ある家のかたわらで立ち止まり、

「ここだ」

と頷くと、部下に指示して、

多買黐以塗壁。

多く黐(もち)を買いて以て壁に塗る。

大量の鳥もちを買ってきて、その家の壁に塗らせた。

「これでソレを捕らえることができるのだ」

「ははー」

ひとびとは半信半疑であったが、太守さまが言うのであるから恐れ入っておくしかない。

夕有一蝙蝠大如鶏、集其上、不得去。

夕べ、一蝙蝠の大いさ鷄の如き有りてその上に集(と)まり、去るを得ず。

日暮れ方、一匹のニワトリのように大きなコウモリが戻ってきて、その壁にぶらさがって止まったが、トリモチに引っ付いてそこから動けなくなってしまった。

「これだ。それにしてもでかいな」

朱誕の指示するまま、ひとびとはこの大コウモリを捕らえ、殺した。

コウモリを捕らえた壁の下には

鈎簾下已有数百人頭髻。

鈎簾の下、すでに数百人の頭髻あり。

簾が懸けられていたが、その簾の下には数百人分の「もとどり」が溜めこまれていたのであった。

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宋・劉義慶「幽明録」より(「太平廣記」巻473所収)。

朱誕の博識、まことに嘆ずべきでありますが、なぜコウモリのしわざだとわかったのか? なぜそこが隠し場所だとわかったのか? というか、なぜこのコウモリはこんなものを集めていたのだ?髪フェチか?・・・などの途中の手順はまったく記録されていません。ならばSTAP細胞の作り方を自分だけが知っている、というひとがいてもおかしくはないのカモ。

 

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