平成25年3月12日(火)  目次へ  前回に戻る

 

沖縄にもPM2.5がだいぶん来ました。眼やのどが痛いレベル。しかし○縄タイムスによれば「チュウゴク由来のものとは断言できない」そうですよ。(笑)

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南宋の時代のことでございます。

余干(江西・鄱陽の南にある県)の町から北へ官道を進んで行くと「史家塘」と呼ばれるため池がある。

決して大きな池ではないが、

緑水澄清、過客多賞恋、勿忍去。

緑水澄清にして、過客多く賞恋して去るに忍びず。

碧く清らかな水が溜まっていて、官道を行く旅びとたち、多くはこれをほめたたえ、行き過ぎるのを残念に思うほどであった。

さて、ある夏の日のこと、

一官人携妻奴来、留止甚久。

一官人の妻奴を携え来たり、留止すること甚だ久し。

あるお役人が家族や下男下女を引き連れてこの場で休憩し、ずいぶん長い間とどまっていた。

その一行の中に女の子あり、

為人軽浮。

人となり軽浮。

ちょっとお調子もので、深い慎みがない性格であった。

この子が、ちょうど暑いさかりのこととて、不作法にも

即脱履襪、下濯足。

即ち履襪を脱ぎ、下して足を濯(あら)う。

くつと靴下を脱ぎ棄てて、裸足を水の中に入れて戯れていた。

と―――真昼間に、何人もの同行者が見たのである。

為物従水内挽以入。

物の水内より挽きて以て入るるところと為る。

池の中から何物かの手が伸びて、女の子の足を摑むと、するりと彼女を水中に引き入れたのを。

あ、という間の出来事であった。

女の子は

「た、たすけ・・・」

と口にして両手を空に伸ばしたが、恐怖で見開いた目もそのままに水中に没してしまった。

ひとびと、

不知所為。

為すところを知らず。

どうしていいかわからないうちのできごとであった。

報せを受けてすぐに主人が飛んできたが

望之不見。

これを望めども見えず。

池を見渡してみてもどこにも女の子のかげもかたちも無い。

若い衆らが潜ってみようかと申し出たが、主人はそれを押しとどめ、

旋即農家仮水車。

旋(ただ)ちに農家に即(つ)きて水車を仮(か)る。

すぐに近所の農家から足踏み式の水車を借りて来させた。

それを使って、人を雇い水が涸れるまで掻き出させたが、底が見えても結局、死体はおろか

不得踪跡。

踪跡を得ず。

何の手がかりも見つからなかった。

ということである。

コワいことじゃのう。

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宋・洪容斎「夷堅志」巻三十四より。

というふうに、チュウゴクにはあちこちに妖魔が潜んでいるのでございます。チュウゴクから流れてくる大気中にも、いくらでも妖魔が混ざっているのでございましょう。

 

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