平成24年5月31日(木)  目次へ  前回に戻る

 

今日は完全に風邪ひきましたわ。もう寝る。

わしも旅の境涯にあれば、旅先の病床は心細さも格別である。

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蓬窗夜啓、月白于霜。漁火沙汀、寒星如聚。

蓬窗、夜に啓(ひら)けば、月は霜よりも白し。漁火は沙汀にありて、寒星の聚まるが如し。

船室の窓を夜に開いて空を見れば、月の光は霜よりも白い。

水際の砂上の向こうには、いさりびが揺れて、ひえびえとした星がそこに集まっているようだ。

という、わびしく見える冬の旅も、

忘却客子作楚、但欣烟水留人。

客子楚を作(な)すを忘却して、ただ欣(よろこ)ぶ烟水の人を留むるを。

むかし、楚の地を旅するひとは己れの夢の破れたのを嘆いた(※)が、わしはそんなことはなく、

水多く湿気で霞むこの湖南の地の風景が楽しくて、帰ることができないでいる。

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と、明・呉従先「小窗自紀」に書いてありました。(第四十二則)

とりあえず気の持ちようで、旅の空寝も楽しいものじゃ。風邪も明日休んで一日寝ていれば治るだろう。

ちなみに、(※)のところ、顧況「湖中」(「唐詩選」巻八)

青艸湖辺日色低、  青艸(せいそう)湖辺に日色低く、

黄茅瘴裏鷓鴣啼。  黄茅瘴裏に鷓鴣(しゃこ)啼きぬ。

丈夫飄蕩今如此。  丈夫、飄蕩して今かくの如し。

一曲長歌楚水西。  一曲の長歌、楚水の西。

青艸湖(洞庭湖の南にあるという)のほとりに日は暮れなずみ、

黄茅瘴(こうぼうしょう。湖南の地に特有の湿気を含んだガス)の中でシャコ鳥が鳴いている。

この(おれのような)立派なおとこが、ふらふらとさすらうて今はこんなふうになってしまっているのだ、

楚水の西の地で、長い一曲の歌をうたい、己れの無聊を嘆いている。

を踏まえて訳してみました。

この詩の転句・結句、かっこいいでちょ。おいらが人に所望されて色紙を書くとき、よくこの句を使うのもムベなるかな、でございましょう。

なお、左伝の「楚囚」は楚から北方へ連れてこられた人で、楚の国に囚われたひとではありませんので、念のため。

 

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