令和元年6月7日(金)  目次へ  前回に戻る

なんと、雨が降ると地面から出ることもできないやる気の無さになるとは、怪しからんでぶー。余のように勤勉になるべきでぶー。

雨も降るし、今日も眠かった。治療行為をして寝ます。さすがに間もなく梅雨入りのようで、じめじめして体痒い。

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唐のころのこと、浙江・明州(今の寧波)の役所に雇われていた孫某という御用絵師がいたのですが、このひとが役所の執務室で絵を描いていたとき、頭の上の方で何かこそこそと音がするのです。

「?」

見上げてみると、

見梁上一人、長数寸。

梁上に一人の、長さ数寸なるを見たり。

梁の上に、背の高さ十センチぐらいのひとがいるのが見えた。

「?」

茫然としていると、そのひとは、

拝之遂下、如常人。

これを拝して遂に下るに、常人の如し。

孫に向かって胸の前で手を組んで頭を下げて挨拶をすると、梁の上から「ひょい」と飛び降りて来た。飛び降りたときには、普通のひとの大きさになっていた。

「?」

ぽかんとしている孫画師に向かって言うに、

無懼。我略到此、就爾房寄一宿。切未可泄其事。

懼るる無かれ。われここに略到す、爾の房に就きて一宿を寄らん。切にいまだその事を泄(もら)すべからず。

「こわがってはなりませんぞ。それにしても、わしはやっとここに着いたのじゃ。おまえさんの部屋で少し休ませてもらおう。じゃが、絶対にこのことを人に言うてはなりませんぞ」

言訖而去。

言い訖りて去る。

と、言ったかと思うと姿が見えなくなった。

「?」

夜になった。

すると、

却来。孫莫測之。

却り来たる。孫、これを測るなし。

また戻ってきた。孫はいったいどういうことか想像もできなかった。

もしかしたら小さくなって部屋のどこかで寝ていたのかも知れません。

そのひとは、それからしばらく腕組みをして何も言わずに座っていたが、

可入三更奮然不見。

三更に入るべきころ奮然として見えず。

昔は、夜の時間(季節によってその長さは変わりますが)を六に分けると、だいたい二時間ごとに五回の区切りができますが、その時間に見張りが更代することになっていたので、これを一更・二更・三更・四更・五更といいます。三更は今だと日付の変わる深夜、五更は夜明け前の一番暗いころ、ということになります。

真夜中(の番兵の交代時間)になったころ、そのひとは突然、「ふがー!」と興奮して立ち上がると、どこかに行ってしまった。

「???」

逡巡左手摯一人頭、右手持銭五緡。

逡巡するに左手に一人頭を摯(と)り、右手に銭五緡を持ちきたれり。

しばらくしたところ、また現れたが、そのときは左手にひとの首をつかみ、右手には銭(千枚を紐に通した一緡(ひとさし))を五緡持っていた。

「うわあ!」

とびっくりしました。

そのひとが孫に向かって言うに、

聊奉宿償。

いささか宿償を奉る。

「些少でござるが、一泊のお礼じゃ」

五緡の銭をじゃらじゃらと置いた。当時としてはすごい大金である。そして、

「では」

将人首騰空而逝。

人首を将(も)ちて空に騰がりて逝けり。

人の首を持ったまま空に飛び上がって、消えて行ったのであった。

「???」

孫はどうすればいいのかわからず、まんじりともせずにその夜を過ごした。

及曙、有掌庫者失其首。

曙に及びて、掌庫者のその首を失う有り。

夜が明けると、役所の一隅で、何やら騒ぎが起こった。倉庫係の者が倒れていたのだが、その頭が無くなっていたのである。

「なんと!」

孫はすぐに取り締まりの役人のところに行き、昨日あったことを正直に告げた。

「そうですか、こいつはその不思議なひとにヤラれたんですな。それでは事件性はあまりないわけだ」

確認してみると、

其銭即庫内者、遂告納之。

その銭は即ち庫内のものにして、遂に告げてこれを納む。

もらった銭は、すべて倉庫内から盗まれたものであったことがわかった。孫は申告してすべて返した。

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五代・龍明子・陳簒「葆光録」巻一より。孫画師以外にこのひとを見た者はいないんです。しかも銭は彼の部屋で発見されている。どう考えても名探偵(でなくても普通の探偵でもいいレベルですが)に

「犯人は・・・おまえだ!」

と指さされる状況のような気がしますが、疑われないというのは、よっぽど普段から信用されていたのでしょう。やはり人間は、普段の行いが重要なのだなあ。

 

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