平成31年4月20日(土)  目次へ  前回に戻る

↓のトラ退治名人のじじいぐらいなら、おれがとっちめてやるにゃ! と、悪のネコが立ち上がる。

夕べ夜更かししてこのHP更新して、今日は午前から野球観戦。疲れるなあ。もう少し年とったらタクシーで球場まで行っても車から降りられなくなってくるぞ。

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清の時代のことですが、陝西の漢中で

出一猛虎、傷人無算、猟戸与官兵莫能制之。

一猛虎を出だし、人を傷むること算無く、猟戸と官兵のよくこれを制する莫(な)し。

強力なトラが出た。ひとを殺したり傷つけたりすること無数、狩猟を世襲する専門家と地方軍の中にも、このトラに勝てるものはいなかった。

「この上はあの方にお出まし願うしかあるまい」

有善搏虎某者、年老不能下車矣、衆猟戸官兵稟県固請、其人始出。

虎を善く搏つ某なる者有れども、年老いて下車するあたわず。衆猟戸・官兵ら県を稟(う)けて固請し、その人始めて出づ。

トラ退治の名人といわれる人がいるのである。ただし、その人は既に年老いて、外出の際は車を人に引かせて出かけるのだが、その車から降りることができないほどとなっているという。それでも、多数の専門家や地方軍の幹部らは、県の命令を受けた形で、その名人に強く要請し、それで名人はようやく御出馬されたのである。

名人は

遂入山、手握鉄鞭、拾級而上、卒遇此虎。

遂に入山し、手に鉄鞭を握りて級を拾いて上るに、ついにこの虎に遇えり。

とうとう山中にお入りになられた。手に武器の鉄のムチを持たれ、階段を一段一段踏みしめながら昇って行き、ついにこのトラと遭遇したのだ!

―――ところが、名人は、

竟為所殺。

ついに殺すところと為る。

あっさりと、トラに殺されてしまったのであった。

「あのお方でもダメか!」

と絶望と無力感が漢中府一帯に広がったのである・・・が―――、

村家養牛数十頭、正在山上、見此虎至、群牛皆退縮。

村家の養牛数十頭、まさに山上に在り、この虎の至るを見て群牛みな退縮す。

ある村で農家が数十頭のウシを飼っていた。このウシたちが山の頂上部にいたとき、例のトラがのしのしと近づいてきた。これを見て、ウシどもはみなじりじりと退いた。

惟一牛独前、与虎熟視者久之、忽奮力一角、正穿虎喉、虎立斃。

惟(ただ)一牛のみ独り前(すす)み、虎と熟視することこれを久しくし、忽ち一角を奮力するに、正しく虎の喉を穿ち、虎たちどころに斃る。

ただ一頭のウシだけが前に出てきて、近づいてきたトラと睨み合った。かなりの時間睨み合った末、ウシが動いた。突然一方の角を突き出して、正確にトラの喉を突いたのだ。トラは突然の攻撃に立ちどころに倒れ、死んだ。

「なんと!」

「やりましたー!」

大逆転です。

報之県官、遂将此虎賞畜牛之家、幷以銀五十両奨之、一県称快。

これを県官に報ずるに、遂にこの虎を将いて畜牛の家を賞し、あわせて銀五十両を以てこれを奨(すす)め、一県快を称せり。

このことを県庁にご報告したところ、このトラの皮をウシを飼っていた農家に褒美として手交することになった。あわせて銀五十両を与えて今後も(養牛に)励むようにさせた。この報が広まるや、県内はすみずみまで大いに喜んだのであった。

ああ、よかったなあ。

ところでこれに後日談があります。

未一年、畜牛之家偶将虎皮出曬於石磨上。牛臥其旁。

いまだ一年ならざるころ、畜牛の家、たまたま虎皮を将いて、出だして石磨上に曬(さら)すことあり。牛、その旁に臥す。

一年も経たないころ、ウシを飼っていた農家では、戴いたトラの皮を倉庫から持ち出して、石の碾き臼の上に懸けて日干しをした。そのかたわらでは、トラを退治した例のウシが昼寝していた。

しばらくして、ウシは目を覚ました。

醒而見之、又奮力一角、力尽而死。

醒めてこれを見、また一角を奮力するに、力尽きて死せり。

目を覚まして、目の前にトラの毛皮があったので、再び一方の角を突き出して、トラの皮を突いた。それでも相手が倒れないので、何度も何度もトラの毛皮(=碾き臼)に挑みかかっているうちに、とうとう力尽きて死んでしまった。

以爲真虎也。

以て真虎と為せるなり。

どうやらこれをホンモノのトラと見間違ったようだ。

おしまい。

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「履園叢話」巻十四より。このウシ、あんまり報われることもなく、敵を間違えて自ら滅んで行ったのです。なんだか勉強になるなあ。

われら自身が組織の中でどのような位置づけであるのか、このウシのような位置づけなのか、猟戸や地方軍の位置づけなのか・・・あるいはトラの方なのか、あるいはトラ退治名人なのか・・・。汲めども尽きせぬ教訓が詰まったお話でございました。休日だとこんなためになるお話も落ち着いてすることができるんです。

 

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