平成31年3月21日(木)  目次へ  前回に戻る

実存に関する迫真の事案である。このAとBとCとDの関係を自らの問題として考えることが出来れば、悟りに至れる・・・カモ知れません。あくまで「カモ」ですよ。

今日は休みだったのに、明日はもう平日とは不快である・・・。今日は不潔な話をして、みなさんも不快なキモチにしてやるぜ。

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ある晩、火鉢の周りで三四人(つまり、わしが一人とあとは弟子がニ三人)ではなしをしておったところ、(弟子の)一人が言うに、

―――ある老人がおっしゃるには、

向便桶便小用、有旨、密可伝之。

便桶に向かいて小用を便ずるに、旨有り、密かにこれを伝うべし。

―――小便桶に向かって小便をするときに、大事な秘訣があるのじゃが、他言無用のことじゃぞ。

「はあ」

汝蓋小便之時、不可直便其桶中心。便其中心、則有便声而汚人之耳、有便臭而汚人之鼻。

汝、けだし小便の時、直にその桶の中心に便すべからず。その中心に便ずれば、すなわち便声有りて人の耳を汚し、便臭有りて人の鼻を汚す。

―――おまえが小便をするとき、小便桶のど真ん中めがけて小便をしてはならん。ど真ん中に小便をすると、ごぼごぼと小便の音がして他人の耳をイヤにさせるし、小便の臭いもして他人の鼻をイヤにさせてしまうのじゃ。

「なんと」

投便於桶膚、則無声無臭。

便を桶膚に投ずれば、すなわち無声無臭なり。

―――小便を小便桶のへりにかけるようにすれば、音も無く臭いも無いのである。

「なるほど」

・・・などと、

古老之人、以道甚秘矣。可笑哉。

古老の人は道を以て甚だ秘せり。笑うべきかな。

年寄りどもはなんでもかんでも秘伝にしてしまう。ほんとに可笑しいですなあ。

「わはは」「わはは」

とあとの二人は笑ったが、わしは「ちょっと待て」と笑っているのを遮って、言った。

古人之心深可知。雖此一小事如此、況又於大道乎。

古人の心の深きこと知るべきなり。これ一小事なることかくの如しと雖も、いわんやまた大道におけるをや。

老人たちの心遣いの深いことがよくよくわかるではないか。このような大した問題ではないことでも深い考えがあるのだ。(生死とか悟りとかという)大きな問題についてはもちろんであろう。

謂之一小事容易、則大道随之以容易也。道容易人無信、無信則道不立。雖此一小事、授則人信之以受之。雖大道如世話、則人不信而不受之。笑之人者、雖不伝之、此一小事定不可誤。

これを一小事と謂うは容易なれども、すなわち大道これに随いて以て容易ならん。道容易なれば人信ずる無く、信ずる無くんば道立たず。これ一小事といえども、授くればすなわち人これを信じて以てこれを受く。大道は世話の如しといえども、すなわち人信ぜざればこれを受けず。これを笑うの人は、これを伝えずといえども、この一小事は定めて誤つべからざるなり。

この小便問題は小さい問題だ、というのはたやすいことじゃが、そんなことを言っていると大きな問題もそれにつれてたやすい問題だと思われるようになるぞ。問題を解決する方法がたやすいとなると、誰も信用しなくなり、信用しなくなれば教えなんか成り立つものか。小便問題は小さい問題でも、これをわざわざ秘訣みたいにして伝授すれば、話された方は信用してこれを伝授されたことと認識するだろう。大きな問題を解決する方法は、世間ばなしのように身近なものであるのだが、信用というものが無ければ誰もマジメに伝授されようと思うまい。また一方で、こんな小さい問題に秘訣だなんだと言っているのを笑っているおまえだって、この小便の仕方という問題自体は間違った行為をして(音や臭いを立てて)はいかんことだとわかっているじゃろう・・・

とわしがキモチよくしゃべっていると、

言未了、有人開戸出向便桶小用、其声如瀑。

言いまだ了(おわ)らざるに、人有りて戸を開きて出でて便桶に向かいて小用するに、その声瀑の如し。

まだ言い終わっていないうちに、(別の部屋にいた)ひとが誰か、ドアを開けて便所に行き、小便桶に向かって小便をしはじめた。(彼は真ん中に向かってしたので)その音はまるで滝のように大きく聞こえたのであった。

わしは言いました。

如老者言、習是好。又笑老者而如此狼藉是好。

老者の言の如きは、習えばこれ好し。また老者を笑いてかくの如く狼藉なるも、これ好し。

老人の言を聞いて、(小便桶の真ん中は狙わないということを)習慣とするのならそれはスバラシイことだ。一方、老人の言うのを笑って、この(滝のようにうるさい人の)ように無茶苦茶するのも、スバラシイことだね。

そして、

道了笑矣。

道(い)い了して笑えり。

言い終わって大笑いしました。

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沢庵禅師「東海夜話」上之巻より。さすがは後水尾天皇、徳川将軍、宮本武蔵らを感化した稀世の名僧だなあ。小便の臭いがぷーんと臭ってくるような、迫真の道話ではありませんか。すばらしい。なお、この条に続いて、

はしをばわたれ、はしをわたるなと云ふは、面白き綺語也。

「はし」は渡っていいが、「はし」はわたってはいけない、というのは、おもしろおかしいコトバだなあ。

という一休トンチで名高いお話もあります。(こちらは和文)

勉強になるなあ。

 

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