平成30年6月23日(土)  目次へ  前回に戻る

ぶた漁師である。このように平穏に暮らしていたいのに、なぜみんなで苦しめてくるのか。

もう土曜日終わり。明日で日曜日も終わりだ。また平日が来ます。毎週毎週繰り返し繰り返し平日が来るんで、もう涙も涸れ果てたぜ。

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しかし世の中には積極的にハタラくホワイトカラーエグゼンプションなひともいるんです。

郅都(しつと)は揚州のひと、漢の文帝(在位前180〜前157)に仕え、景帝(在位前157〜前141)のときには中郎将として帝のお側に仕えた。

敢直諫、面折大臣於朝。

敢て直諫し、大臣を朝に面折す。

帝の前でもあえて率直な諫言をし、また朝廷の公式の場で大臣がたをやり込めていた。

あるとき、帝に従って上林園に宴したとき、

賈姫如厠。

賈姫、厠に如(ゆ)く。

賈美人さまが、トイレに立たれた。

すると、

「ぶー」

野彘卒入厠。

野彘(やてい)、卒(にわ)かに厠に入らんとす。

放し飼いのぶたも、いそいそとトイレに入って行った。

放し飼いのぶたが突然出てくるのは、偶然でもなんでもありません。野外のトイレで、近世沖縄のうわーふる(ぶた便所)同様、放し飼いにされているブタが、人間の排泄物を食べるために寄ってくるのです。

放し飼いのぶたはニンゲンが排泄している最中にもすり寄ってきますから、危険です。賈美人はケガをしてしまうかも知れません。

賈美人を寵愛する景帝さまは、

目都。

都に目す。

郅都に、(ぶたをやっつけてこい、と)目で合図した。

しかし、

都不行。

都、行かず。

郅都は行こうとしない。

「むむ」

上、欲自持兵、救賈姫。

上、自ら兵を持して、賈姫を救わんとす。

帝は、自ら武器を手にして賈美人を守りに行こうとされた。

すると、郅都はやおら立ち上がり、

伏上前、曰、亡一姫、得一姫進。天下所少、寧賈姫等乎。

上の前に伏して、曰く、「一姫を亡なわば、一姫の進むるを得ん。天下の少なしとするところは、むしろ賈姫の等ならんや」と。

すたた、と帝の前にやってきて、そこに平伏して申し上げた。

「美人がおひとり失われましたならば、別のおひとりが推薦されてまいりましょう。天下において陛下が惜しまれるべきは、どうして賈美人さまレベルの者にとどまりましょうか(天下にはもっといい女がおりましょう)」

「むむむ・・・」

さらに郅都は申し上げた。

陛下縦自軽、奈宗廟太后何。

陛下たとい自ら軽しとせられども、宗廟と太后をいかんせん。

「陛下がたとえ自らを軽んじられ(、賈美人ごときを自ら守る価値のあるものとするのは、自分の勝手だ、と思し召され)たとしましても、漢のご先祖さまをお守りするお身の上を大切にせず、お母上の太后さまにご心配をかけてもよろしいのでございましょうか」

「むむむ・・・・・・」

上還。彘亦去。

上還る。彘また去る。

帝は自分のお席にお戻りになった。やがてぶたも、特に何も悪さはせずにトイレから出てきたのであった。

さて、後日のことでございますが、

太后聞之、賜都金百斤、由重郅都。

太后これを聞き、都に金百斤を賜い、よりて郅都を重んず。

太后さまはこのことをお聞きにになり、郅都に金百斤を御下賜になるとともに、このことから、郅都を重用するように帝に意見するようになった。

そうなのでございます。

ぶたのおかげでエラくなれたのだなあ。

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「史記」巻122「酷吏列伝」より。こうして権力を掌握した郅都さまは、ホワイトカラーエグゼンプションであった。「親にそむき、妻子を顧みない」という働き方をしまして、さてどうなるか、は、またのお楽しみ。

 

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