平成30年6月22日(金)  目次へ  前回に戻る

いつも追い込まれている我らであるが、今日はさらに追い込まれて、来週を迎えることとなる。

一週間終わった。今日はイヤな電話来て来週にかけて不吉な予感はあるが、来週になるまではシアワセだ。

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清の時代のこと、董なにがしという少年がお寺を借りて試験勉強をしていた。

ある晩、

偶月下歩帰、遠見一玉桂挺立田隅。

たまたま月下に歩き帰るに、遠く一玉桂の田隅に挺立するを見る。

たまたま夜になって、月の光の下を歩いて帰ってくることになってしまった。道すがら、一本の玉桂の木が、田んぼの隅にそびえ立っているのが見えた。

歩いているうちにその木に近づいてきました。

逼視則被髪婦人、裸身赤立、長丈四尺、口銜利刃。見董至、背而東去。

逼り視れば、すなわち被髪婦人の裸身にして赤立し、長丈四尺、口に利刃を銜うなり。董の至るを見て、背きて東去す。

近くまで来てみると―――、なんと! 桂の木と見えたのは髪を振り乱した全裸の女であった。しかも身の丈約4メートル、口には研ぎ澄まされた剣をくわえているのだ。

董少年はこれに気づいて「あっ」と息を飲んだが、この女の方でもまた董が近づいたのを見ると、何か予想に違ったのか、

「ひっ!」

と叫んで、まるで董から逃げ出すかのように背中を見せ、東に向かって逃げ去った。

その方向には、

旋見白気衝霄而滅。

旋(たちま)ち、白気の霄を衝きて滅するを見たり。

直後に、白いガス状のものが地上から飛び上がり、空中に突出してやがて消えて行くのが見えた。

「むむむ!」

董少年は大いに驚きました。

明日遍以詢人、無知者。

明日、遍く以て人に詢(と)うに、知者無し。

次の日、いろんなひとに会うたびにこの出来事について質問したが、だれひとりその正体を知る者がなかった。

もう諦めていたころ、ふと一人の道士が訪ねてきて、その晩のことを詳しく訊いてきた。

「かくかく・・・」

と説明するのを聴き終わると、道士は突然席から飛びのいて、董を深々と拝礼し、曰く、

此孛星也。是日下降、遇之者必死。公得無恙。後必大貴。

これ孛星(はいせい)なり。この日下降し、これに遇う者は必ず死す。公、得て恙(つつ)が無し。後必ず大いに貴ならん。

「孛星」はほうき星の一種で、特段に不吉な前兆とされるものです。

「それは妖霊星でございます。その日はちょうどその星が地上に降りてきた日でございました。ふつう、地上でその星に出会った者は、必ずその日に死ぬ、といわれております。ところがあなたは何の禍いも受けなかった。おそらくあなたはこれから大変大切なしごとをなさる定めの方と存じあげました」

董は果たして後に科挙試験に高位で合格し、やがて内閣に入って、乾隆・嘉慶の間に、

秉政幾二十年。

政を秉ることほとんど二十年なり。

政権を掌握すること、ほとんど二十年にわたった。

その間、有為な人材を採用し、叛乱の鎮圧や党争の調停などに活躍して、時人から「社稷の臣」と謳われた文恭公・董誥そのひとである。

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「翼駉稗編」巻二より。孛星はコワいですね。こんなの見たらその瞬間、

「うひゃあ! かんべんちてー!」

と叫んで恐怖で気を失ってしまいそうなぐらい不吉である。それを生き抜いた董が出世するのは当たり前であろう。

 

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