平成30年3月7日(水)  目次へ  前回に戻る

ぶたパンに売れ残り無し。なぜなら売れなかった分は生産者がすべて食べてしまうから・・・。規則正しい食事は健康のもとでもある。

今日は午後から外勤→直帰。少し得した気分。また明日が来るのがツラいけど。

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加賀の国のある武士は、

常好猟、多射鹿。

常に猟を好み、多く鹿を射る。

従来から狩猟が好きで、ずいぶんたくさんのシカを射殺してきた。

あるとき、坊主の説教を聞いていて、

忽自悔思、吾多害物命、罪悪難免。

たちまち自ら悔いて思うに、吾多く物の命を害し、罪悪免れ難からん。

突然、自分のやってきたことを後悔して思うに、「わしはずいぶんたくさんのモノの命を奪ってきた。この罪悪からは逃れられないじゃろうなあ」と。

「ああ、わしはダメ人間なのじゃ」

従此起臥常見鹿、駆之不去、鬱鬱度日、殆不能御飲食、勢向危篤。

これより起臥に常に鹿を見、これを駆るも去らず、鬱鬱として日を度して、ほとんど飲食を御するあたわずして、勢い危篤に向かう。

このときから、起きていても寝ていてもシカの姿が目にうつるようになった。追い立てても去らない。武士はイヤになってふさぎこんで日々を過ごすようになり、飲み食いも規則通りにしなくなって、とうとう危篤状態になってしまった。

それを聞いて、古い友人がやってきた。

このひと、

持一刀来与之、曰、是名神息。霊剣也。置之室中、則百怪不近。

一刀を持して来たりてこれに与え、曰く「これ、神息と名づく。霊剣なり。これを室中に置けば、すなわち百怪近づかざらん」と。

一振りの刀を持って来て、これを武士に贈って、

「この刀は「神息丸」という霊力のある名刀じゃ。これを部屋の中に置いておけば、どんな魔物も近づくことはできなくなるぞ」

と言った。

「そうなのか。これが名高い神息丸という霊刀なのか・・・」

武士はそのことを深く信じ、これを寝室の床の間に懸けた。

すると、

鹿不復見。

鹿、また見えず。

シカはもう現れなくなった。

そのうちに、食欲も出るようになって、

病亦尋瘥。

病いまたついで瘥(い)ゆ。

病気もやがて治ってしまった。

しばらくするとまた友人がやってきた。武士は貴重な霊刀を貸してくれたことを厚く感謝して、大いに礼をしようとしたのだが、友人は

「わははは、滅相もない」

と言いまして、

是市中凡刀耳。凡狐魅邪祟之疾、皆由心而生。鹿本不為祟、汝深信是刀之有霊、故得病瘥。

これ市中の凡刀のみ。およそ狐魅・邪祟の疾は、みな心よりして生ず。鹿もと祟りを為さず、汝深くこの刀の霊有るを信ず、故に病いの瘥ゆるを得たり。

「これは町中で手に入れたありふれた刀じゃ。だいたい、キツネのすだまにとりつかれたり、邪悪なモノに祟られたりしてなる病気は、みんな自分の心が引き起こすものだからな。もともとシカが祟りなんか為すことは無いんじゃ。そして、おまえさんがこの刀に霊的な力がある、と深く信じたから、病気が治ったのじゃよ」

と言いました。

「なにい、だましやがって!」

と武士は刀を抜いて一刀両断に・・・とはなりませんでして、

「わはは、なんだそうであったのか」

「わははは」

と二人笑いあったということです。

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伊藤仁斎「古学先生文集」より。明日もいろいろイヤなことがあると思われますが、こんな霊刀があったら「うるさーい!」とずばっと斬ってしまえばすっきりして、「わははわはは」と笑っていられるカモ。何を斬るのか? それはもちろん・・・

 

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