平成29年9月6日(水)  目次へ  前回に戻る

黙ってすわればときどき当たる、ぶた易者。「おまえさん、会社に行くとイヤなことが起こりそうじゃぞ。会社に行ってはならぬ!」と予言されたのだが、これは的中率100パーセント?

カナカナカナカナ・・・。

ホントに会社に来い、という連絡が来ましたのじゃ。「うるさい、わしはセミのカナカナじゃぞ。わしのようなムシが会社に行くはずないじゃろう」と言って断っておきましたが、「今日は休暇ということにしておいてやるが、明日は絶対に来い」という命令である。

社会人とは、なんというおそろしいやつらであろうか。

わしらムシの恐ろしさも知らないのであろうか。

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安徽・宣州の当塗県城の東南の山のふもとに、むかしむかし、八つの墓があった。

唐の乾符年間(874〜879)に、

有盗発之、得一穴、続絹為縄凡七十匹。

盗有りてこれを発して一穴を得るに、絹を続けて縄となしておよそ七十匹なり。

墓荒らしの盗人があって、そのうちの一つをあばいたところ、深い穴が出てきた。この穴に、絹を結んだ縄を垂らしたところ、だいたい七十匹の深さがあるようである。

古代の長さの単位でる「匹」は20尺、というので、周代の一尺が20センチぐらいだ、というのを掛けると、七十匹は280メートル。

墓盗人たちは、

「地下にすげえお宝があるのだぜ」

「よし、誰か見てこい」

と、どうせ一番立場の弱いやつとかが選ばれたのではないかと思いますが、

縋一人以観之。

一人に縋りて以てこれを観せしむ。

仲間の一人に縄に取りすがらせて、地底を見に行かせることとした。

そいつはからだを縄に縛り付けて、片手に松明を持って地下に下がって行ったのだが――――――。

何十メートルか下がったあたりで、

「うわーーーーーーー!!!!!」

と叫び声をあげた。

「どうしたんだ?」

「は、はやく引き上げてくれーーーーー!」

と断末魔のような叫びである。

墓盗人たちは顔を見合わせ、急ぎみんなで縄を引き揚げると、あがってきたのは・・・・

ニンゲンの形をした真っ黒なものであった。

「な、なんだ、これは・・・」

驚いていると、それは地面をのたうちまわった。すると、黒いものが少しづつ剥がれて、中から人間が現れてきた。

なんと、

爲黒蜂所蠆。

蜂の蠆(さ)すところと為れり。

真っ黒なハチに体中を刺されていたのだ。

「なんということだ」

「しっかりしろ」

みんなで松明であぶってハチを追い払い、そいつを何とか救い出したが、体中を刺されてもう虫の息であった。

・・・そのとき、穴の方から地面が唸るような音が聞こえてきた。

墓盗人たちが恐る恐る穴の中に火をかざしてみると、

「うわーーー」

中からすさまじい数のハチが飛び出してきたのである。

蜂既甚多。

蜂すでに甚だ多し。

ハチはあっという間もなく、おびただしく現れたのだ。

盗人らは

驚懼而去、竟無所得。

驚懼して去り、ついに得るところ無し。

驚き恐れて逃げ出し、とうとう何も盗むことはできなかった。

んだそうです。

この墓、南朝の名将・陶侃一族の墓だったのだ、ともいうのだが、詳しくはわからない。

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五代・杜光庭「録異記」巻八より。絶対さいしょのやつは死んでますよね。

会社のひとたちは、ムシはコワいものなのだ、シゴトさせない方がいいカモ、と思わないのカナ?カナカナカナ・・・・

 

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