平成29年2月6日(月)  目次へ  前回に戻る

そろそろ春が来たかと思うたに、まだ寒いのでぶー。

昼間は日光がそこそこ暖かかったのに、夜になると寒い。

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唐の時代。長安郊外、扶風県城の西の丘の上に天和寺というお寺があった。その麓に、仏像を安置した横穴(「龕」)があって、これは行き先を無くした貧窮者の棲みどころとなっていた。

この穴にいつのころからか趙という老人が一人で住み着いていたが、趙老人は足が萎え、背中が曲がっていて、

常策杖行乞於市、里人哀其老病而窮無所帰、率給以食。

常に杖を策(ひ)きて市に行乞するに、里人その老病にして帰するところ無きに窮するを哀れみて、したがいて以て食を給せり。

いつも、杖をひきずって市場で乞食をしていた。地元のひとたちは、その老いて病み、しかも住むところの無い困窮状態になるのを憐れんで、みななにがしかの食べ物を恵んでやるのであった。

趙老人は食を得て戻ってくると、

必先聚群犬以食之。

必ずまず群犬を聚めて以てこれに食らわす。

必ず、まず野良犬どもを集めて、かれらに食べ物を分け与えてやっていたのであった。

年の暮れに、

叟病寒、臥於龕中。時大雪、叟無衣、裸形就地、且戦、且慄。

叟寒を病み、龕中に臥す。時に大雪なれども、叟衣無く、裸形にして地に就き、かつおののき、かつ慄えたり。

趙老人は寒さに倒れ、穴の中に横になったまま立ち上がれなくなった。ちょうど大いに雪が降り積もったが、老人は服も無く、地面にほとんどじかに寝て、ふるえおののいていた。

老人が動けなくなったころから、

群犬但集於叟傍、揺尾而嘷。

群犬ただ叟の傍に集まりて、尾を揺らして嘷す。

野良犬たちは老人のまわりに集まってきていたが、何をできるでもなく、ただ尾を振り、くんくんと鼻で鳴いているばかりであった。

しかし、老人が震えおののきはじめたのを見ると、

環其衽席、競以身衛叟肢体。

その衽席を環(めぐ)りて、競いて身を以て叟の肢体を衛る。

その身の下に敷いているぼろぼろの布切れのまわりを取り囲み、自分たちの体温で、競うように老人の体や手足を外気から守ろうとした。

これによって老人はどれぐらい寒さを防ぐことができたのだろうか。想像するしかないのであるが、

後旬余、竟以寒死於龕中。

のち旬余、ついに寒を以て龕中に死せり。

それから十日あまりして、とうとう穴の中で凍死してしまったらしい。

犬たちに囲まれて死んでいる老人を発見した寺男は、老人の死に顔は確かに幸せそうに笑っていた、と言っていた。

群犬哀鳴、昼夜不歇。数日方去。

群犬哀鳴し、昼夜歇(つ)きず。数日にしてまさに去れり。

野良犬たちは悲しそうに、昼も夜も泣き続けていたが、寺男がその遺体を片付けると、数日後にはみないなくなってしまった。

そうである。

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唐・張讀「宣室志」巻二より。

住むところなくしかもハダカなら、犬にでも暖めてもらうしかあるまいが、幸いにして家と布団とエアコンと新聞紙があるので、今のところ犬は要らないのである。

 

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