平成28年2月28日(日)  目次へ  前回に戻る

まだ初蝶は見ていないなあ。

人生における郷里ともいえる「休日」に憩っていたのに、もう明日からツラい「平日」に旅立たねばならぬ。

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郷里の江南を離れて、洛陽に上るときのうた。作者の陸機(字・子衡)は敗戦国である呉の貴族で、それが戦勝国の魏の朝廷に仕えに行くのであるから、かなりイヤだっただろうと思います。

―――そろそろ行かないと・・・。

手綱を取って長い道のりについた。

嗚咽して親しいひとたちと別れた。

借問子何之。 借問す、子はいずくに之(ゆ)くぞ。

世網嬰我身。 世網、我が身に嬰(まつ)われり。

 「お聞きしたいが、おまえさんはどこに行くのかな?」

 「世間の網がおいらにまつわりついて、それに捕らえられたんです」

永歎遵北渚、 永く歎きて北渚に遵(したが)い、

遺思結南岸。 思いを遺して南岸に結ぶ。

 長江の北の渚にわたってきて、ためいきをついてしばらくぶらぶらした。

心は長江の南の岸に結び付けて、遺してきたままなのだ。

そうしててもしようがないので、さらに北に向けて進む。

行行遂已遠、 行き行きて遂にすでに遠く、

野途曠無人。 野途は曠として人無し。

 ずいぶん進んで、もう故郷はかなり遠くなった。

 原野の道ははるばるとして、誰一人の姿も見えない。

だんだんと内陸に入ってまいりました。山やさわは曲がりくねり、林や茂みは奥深い。

―――うおおん。

虎嘯深谷底、 虎は深谷の底に嘯き、

雉鳴高樹巓。 雉は高樹の巓(いただき)に鳴く。

 トラが深い谷の底でながながと吼えている。

 キジは高い木の上できいきいと鳴いている。

日が暮れてまいりました。

哀風中夜流、 哀風は中夜を流れ、

孤獣更我前。 孤獣は我が前を更(す)ぐ。

 さびしげな風が夜になって吹き始めた。

 群れからはぐれたのか、孤独なケモノがおいらの視界を横切っていく。

「孤獣」は幻視された作者の分身なのだろう。どこからか来て、闇の中に消えていったのだ。

悲情触物感、 悲しき情は物に触れて感じ、

沈思欝纏綿。 沈める思いは欝として纏綿たり。

 悲しいキモチは、何を見聞きしても湧いてくる。

 思いは沈み込んで、うつうつとまといついてはなれない。

ああ。

佇立望故郷、 佇立して故郷を望めば、

顧影凄自憐。 影を顧みて凄として自ら憐れむのみ。

 立ち止まってふるさとの方を眺めるのだが、

 まず見えるのは自分の影。さびしくって、自分で影をなぐさめるばかりだ。

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魏・陸機「赴洛道中作」洛に赴くの道中の作)その一(「文選」巻二十六より)。

おいらもともと生まれは風の国イーサ。この桃郷のひとたち(←シゴト関係の)コワいから、そろそろ帰郷したいかも。

地虫出づふさぎの虫に後れつつ (相生垣瓜人)

 

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