平成27年12月22日(火)  目次へ  前回に戻る

この時期は煙突詰まらせにくるやつもいますから、ご用心。

冬至なので明日からは暖かくなるなあ。と思いまして、ちょっと現世に戻ってきました。明日まではこちらに居ようかな。

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南宋の時代なんですが、首都・建康で菓子舗を営んでおった鄭老人というひとの身に起こったこと。

鄭老人の次男が嫁をもらった。

商売の調子も悪く無いし、長くここに住んで知るひとも多い。鄭は大いに祝ってもらうこととし、

三日大合客、客有見燭光上、人物長数寸者十余輩、負一小棺廻旋而行。

三日大いに客を合するに、客に、燭光上に人物の長数寸なる者十余輩、一小棺を負いて廻旋して行くを見る有り。

三日間ぶっとおしの大宴会を催した。

その席上、客の一人が、「お、おい、あれは何だ?」と言い出した。

あかりの中に、数寸の背丈の人十余人が浮かびあがり、彼らは小さな棺桶を担いで、ぐるぐると巡り歩いているのである。

その客が

指以示人、人皆見之、莫不愕然。

指して以て人に示すに、人みなこれを見て、愕然とせざるなし。

みなに指さして示すと、みんな同じものを見て、おどろきあきれない者は無かった。

ところが、

独鄭老無覩也。

ひとり、鄭老覩る無し。

鄭老人だけにはそれが見えなかったのである。

と、その小さなひとびとは、

須臾滅没。

須臾に滅没す。

あっという間に消えて見えなくなった。

代わりに今度は、

有白蝶数十、繞屋而飛。

白蝶数十有りて、屋を繞りて飛べり。

真っ白な蛾が数十匹、建物の回りを飛び回りはじめたのであった。

この蛾の群れは鄭老人にもよく見えた。客人たちが驚き騒いでいる間に、鄭老人は考え込み、

罷酒。意非吉証。

酒を罷む。吉証に非ずと意(おも)えり。

盃を置いて酒を止めた。これらが佳いことの起こる前兆とはとても思えなかったからである。

・・・次の日、老人は道士を呼んでお祓いをしてもらうことにした。

お祓いの儀礼が進み、道士は鄭老人を促して、

焚楮泉。

楮泉(ちょせん)を焚かしむ。

「楮」は紙の原料、「泉」は同音の「銭」のこと。「楮泉」は要するに「紙銭」のこと。紙の銭を焼いてその煙を天に届け、神々やご先祖さまに贈るのである。

紙銭を焼かせた。

鄭が促されるままに紙銭に火をつけた、そのとき―――

回風飄、火著屋楣上。

回風飄として、火、屋楣の上に著く。

つむじ風が吹いてきて、紙銭が舞い上がり、火が建物のひさしに着いた。

「ああ!」

という間もあらばこそ、そこから

烈焔随起。

烈焔随いて起こる。

はげしい炎があがりはじめたのである。

そして、

相対売線家植両竿於門、不知火従何来、対然如炬、遂延焼百余家。

相対の売線家、門に両竿を植えたるが、火のいずれより来たるかを知らず、対然として炬の如く、遂に百余家を延焼したり。

向かいの糸売り屋の門に二本の竿が(看板代わりに)立っていたが、どこからどう燃え移ったのか、この二本の竿がまるでたいまつのように燃えあがりはじめ、さらにとうとう百余の家に延焼する大火となった。

この火事の中で、

鄭老以焚死。

鄭老は以て焚死す。

鄭老人は焼け死んでしまった。

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宋・佚名氏「鬼董」巻四より。

冬至です。乾燥してまいりました。風も強くなってまいりました。みなさん、火には用心してください。

 

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