平成27年11月29日(日)  目次へ  前回に戻る

秋の野辺を彷徨う。

今日はむかし住んでいたあたりをさまよい、遊びほうけてきた。

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昨日ちょびっと出てきました温庭筠(おん・ていいん)について、こんなエピソードがあるのでご紹介する。

温庭筠は、青年時代から作詞家として有名であった。

郷里から推薦されて長安まで試験を受けにいくこととなったが、長安に直行せず、まず長江、淮水のあたりをぶらついて、遊びほうけていた。

このあたりは当時、揚子留後の姚勖(よう・きょく)が支配していたが、姚勖、その詩名高いことを以て厚く処遇し、長安に行くための路銀についても用意立てしてやった。

ところが、庭筠は

其所得銭帛、多為狭邪所費。

その得るところの銭帛、多く狭邪の費やすところと為る。

もらったお金や財貨のほとんどを、女遊びに使い果たしてしまったのだった。

「見どころがあると思ったが、怪しからんやつじゃ」

姚勖おおいに怒り、

笞且逐之。

笞してかつこれを逐う。

ムチでぶん殴って、追い出してしまった。

庭筠はこれがショックだったらしく、科挙試験を受ける意欲も無くして一段と遊びほうけるようになってしまった。

さて、庭筠の姉の温氏というのは趙顓之の妻で、趙は姚勖の友人であった。

ある日、趙の家にお客があり、温氏が下僕に「どなたがお見えだえ?」と訊くと、姚勖どのであるという。

「ほんとかい?」

温氏は確認をとると、

遽出庁事、執勖袖、大哭。

にわかに庁事に出、勖の袖を執りて大哭す。

突然おもて座敷に飛び出すと、姚勖の服の袖を握って、大きな声をあげて泣き出した。

「な、なんだ、なんだ、なんですか」

突然おんなが出て来て泣きわめきはじめたので、

勖殊驚異、且持袖牢固不可脱、不知所為。

勖、ことに異に驚き、かつ袖を持すること牢固として脱するべからざれば、為すところを知らず。

姚勖は異常事態に驚き、また女が袖をあまりにも強くひっつかんでいて、振りほどくこともできないので、どうしたらいいかわからないでいた。

困っていると、やがて女がいうに、

我弟年少宴游、人之常情、奈何笞之。迄今遂無有成、安得不由爾致之。

我が弟、年少にして宴游す、人の常情なり、いかんぞこれを笞うたん。今にいたるまで遂に成すこと有る無きは、いずくんぞ爾のこれを致すによらざるを得んや。

「わたしの弟はまだ年若いのですから、女遊びにうつつをぬかしたって、当たり前ではございませぬか! それなのにどうしてムチでぶん殴るなんてことをなすったのですか? それ以来、弟はずっとダメになってしまったままなんです。これは、あなたさまのせいでない、とは申せませぬぞえ!」

そして、さらに大声をあげて泣きわめいたのである。

久之、方得解脱。

これを久しくして、まさに解脱を得たり。

だいぶん経ってから、ようやくひとの助けを得て、女の手を振りほどくことができた。

「そうか、このひとはあの庭筠の姉さんか・・・」

と、このときは苦々しい顔をして引き上げた姚勖であったが、

帰憤訝、竟因此得疾而卒。

帰りて憤り訝しみ、ついにこれによりて疾を得て卒せり。

帰ってから

「なぜこんなめにあわないといかんのだ!」

と憤り、とうとうそこから病気になってしまって、まもなく死んだ。

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唐・無名氏「玉泉子」より。温庭筠はその才能に比してずっと冷や飯を食ったひとですが、姉貴がこんなひとでは仕方あるまい。

それにしても明日はまた平日。つらいしごとが・・・。明日、なんとか職場から帰ってくることができたら、

「(コドモなのに)なぜこんなめにあわないといかんのだ!」

と憤り、病気になって卒してしまうかも知れません。

 

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