平成27年6月7日(日)  目次へ  前回に戻る

夏祭りの季節も近い?

夜は涼しいのですが昼は日が射している間は暑い。夏です。今日も焼けた。夏になってまいりましたので、コワいお話でもいたしましょう。

・・・・・・・・・・・・・・・・

ひっひっひ。

北宋の政和年間(1111〜1118)、冀州の宿屋でのことじゃ。誰がいうともなく

某官之家、有異事。

某官の家に異事有り。

お役人のナニガシさんの家で、最近おかしなことがあったそうだ・・・。

ということが噂になった。

ただ、ナニガシという役人は当地にはいない。宿屋では「いったいどこのナニガシさんであろうか」と首をひねっていた。

するとその晩、隣の県のナニガシというお役人が急な出張で来訪して、その宿屋に泊ったのである。

夜、酒食を命じて、その席で自ら言うには、

某妻生一男一女而死。

某の妻、一男一女を生みて死せり。

「わたくしは先妻との間に男の子一人と女の子一人がありましたが、その先妻を数年前に亡くしましてな・・・」

今年になっていろいろ不便なので後妻を娶ったのだそうだが、再婚してしばらくしたある日―――突然、空中から死んだ妻の声が聞こえたのであった。

如小児吹糾子状、三二日輙一至。

小児の吹するが如く、子の状を糾し、三二日にすなわち一至す。

二三日に一回はやってきて、小さな子どもが喚くような声で、息子と娘の様子を訊ねるのである。

「元気でやっている」とか「今日はこんなことして遊んでいた」とか教えてやると声は聞こえなくなるのであった。

ある日、また声が聞こえてきたときに、ナニガシはふと思いついて、声だけの妻に逆に訊ねてみた。

君亦有形乎。

君、また形有りや。

「おまえには、形体というものは無いのか?」

すると声だけの妻は生前のとおり勝気な声で、答えて曰く、

有之。

これ有り。

「有りますわよ」

そして、たちまち

見形如平生。

形を見(あら)わすこと平生の如し。

生きていたときとそっくりの姿を現した。

ナニガシはあまりのことに涙を流して近づこうとしたが、妻は身を引いて、どうしても数歩より近くには寄ってこない。

「いろいろ話したいことがあるのじゃ。おまえと起き伏ししていた部屋に行こうではないか」

と説得して寝室に連れて行き、少し離れて座ったところで、さまざま昔話をした。妻(の霊)も泣いたり笑ったりして過去のことを懐かしく語り合って、かなり和んだところで、ナニガシは突然

起執其手。

起ちてその手を執る。

立ち上がって側により、妻(の霊)の手を握った。

「!」

その手は、

堅冷冰鉄。

堅冷なること冰鉄のごとし。

氷か金属のようにかちんかちんに堅く、冷え切っていたのだそうである。

「なにをするの!」

妻勃然掣手去。

妻、勃然として手を掣して去る。

妻(の霊)は怒りだして、手を振りほどくと、消えてしまった。

・・・・五日ほど後、前妻(の霊)は

乃復来、チ曰、前日遽驚我何耶。

すなわちまた来たりて、チ(いか)りて曰く、「前日にわかに我を驚かすは何ぞや」と。

またやって来て、ずいぶん憤ったようすで、「この間の、あの突然わたしをびっくりさせた振舞いは、いったいどういうことですの!」と叱った。

ナニガシは何度も謝ったが、

「あの振舞いはしかるべきところに訴えて、責任をとってもらいますからね」

と言うのであった。

これが数日前のことであったが、ナニガシが言うには、

「実はその晩、今の妻が夢を見ました。

夢其先祖云、爾夫前妻為怪、乃陰府失収耳。

夢にその先祖の云うに、「爾の夫の前妻怪を為すはすなわち陰府の失収せるのみ。

夢の中に今の妻のご先祖が出てきて、おっしゃるには、

「おまえの旦那の前妻が心霊現象を起こしているのは、実はこちらの政府(←あの世の政府)の捕捉ミスだったのじゃ。

ところが、その前妻が、わざわざこちらの政府に夫の行動が怪しからんと訴え出たので、捕捉ミスをしていたのがわかった。

今已召捕且獲。

今すでに召し捕りてまさに獲ん。

今晩、こちらの役人が収容しに行ったから、いまごろちょうど捕捉されているころであろう」

と。

ナニガシ曰く、

後数日果絶。

後数日、果たして絶す。

「それから数日経ちますが、前の妻(の霊)はもう現われません」

とのことであった。

ああよかった。めでたし、めでたし・・・・・・・・・・・・・・・・・でいいのかな?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

宋・廉布「清尊録」より。

なお、隣の国の政府もMERS感染疑いの隔離者の行動ぐらいは捕捉しておいてほしいところ。

←ひっひっひ。夕刻、こんなまがつ雲が見えておりましたなあ・・・。東京北郊方面。

 

表紙へ 次へ