平成27年1月29日(木)  目次へ  前回に戻る

パンが無ければ耳を食べればいいじゃない?

今週はまだ明日もありますが、月曜日から今日までにもう二回も「王将」のぎょうざ食ってしまいました。昨日はイナゴの佃煮も食った。明日は何を食べるのであろうか。

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北宋初期の淳化年間(990〜994)、四川での出来ごと。

支氏という富豪が、先祖を祀るため、昭覚寺というお寺で大いに法事を行った。

一連の行事を終えて斎(とき。僧侶たちに食事を進める)がはじまったのであるが、このとき、

寺僧市野菌。

寺僧、野菌を市(か)えり。

寺の僧侶たちは、野生のキノコ類を買い込んで来ていた。

山菜・キノコのたぐいは精進料理に欠かせません。

このキノコ、

有黒而班者、或黄白而赤者、為斎食。

黒くして斑らなるもの、あるいは黄白にして赤きものあり、斎食と為す。

黒地にまだら模様のついたのとか、レモン色に赤い斑点のやつとか、ずいぶん華やかなものばかりであったが、これを僧侶たちの食事に使ったのだった。

これが意外と旨い。

衆僧食訖、悉皆吐瀉。

衆僧食い訖(おわ)りて、ことごとくみな吐瀉す。

坊主ども、みな「うまい、うまい」と食った。・・・食い終わったところで、「うげげ」と突然吐き出しはじめたのである。

腹を抑え、七転八倒して吐き出すのであるが、

亦有死者。

また死者あり。

そのうち死人まで出始めたのである。

医師が呼ばれて来た。

医師は

「おお、これはひどいのう」

と言いながら、苦しんでいるやつの脈をとり、死んだやつの目の玉を見、それから食べたモノを確認して、指図した。

掘地作坑、以新汲水投坑中、攪之澄清、名曰地漿。毎服一小盞、不過再三、其毒即解。

地を掘りて坑を作り、新汲の水を以て坑中に投じ、これを攪して澄清せしを、名づけて「地漿」と曰う。つねに一小盞を服し、再三を過ごさざれば、その毒すなわち解けん。

「すぐ地面に穴を掘りなされ。その穴に汲んできたばかりの水を入れ、それからかき混ぜなされよ。かき混ぜたあとしばらく置いて、上澄みができたらこの水を採取せよ。これを「大地の液体」と呼ぶが、この液体をおちょこ一杯だけ服用すること。まちがっても二杯・三杯と飲んではなりませんぞ。かくすれば解毒されますぞよ」

そのとおりにして、ずいぶんたくさんの人が助かった、という。

さてさて。

蕈菌之物、皆是草木変化。生樹者曰蕈、生於地者曰菌。皆湿気鬱蒸而生。又有生於腐骸毒蛇之上者、大而光明。人誤以為霊芝、食而速死。

蕈菌の物はみなこれ草木の変化なり。樹に生ずるものを蕈と曰い、地に生ずる者を菌と曰う。みな湿気鬱蒸して生ずるなり。また腐骸・毒蛇の上に生ずる者は大いに光明有り。人あやまちて以て「霊芝」と為し、食らいて速やかに死す。

キノコ・コケの類はすべて植物が変化したものなのである。このうち木に寄生するものを「きのこ」といい、地面に生えるものを「こけ」というのだ。すべて湿気がむしむしとこもって生まれるのである。また、腐敗した生物の死骸や毒蛇の体に生じるものがある。これらは特に非常にぴかぴかしている。ひとはこれを見つけて、たいへん美しいので「霊なるコケ」だと思って食べてしまうのだが、食べるとあっという間に死んでしまうのだ。

かように、ぴかぴかしたものは危ういのである。

ここにこれを記していましめとする。

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宋・黄休復「茅亭客話」巻五より。ほかにガマガエルも美味いが危険だそうです。気をつけましょう。

これ↓は食べられるかも。何かの比喩みたいだが。

 耳の上に耳が生えてくる

 耳の上に耳を生やして安心してはいられない

 菌(きのこ)のように引っこ抜ければいいのだが

そんな生やさしいシロモノではない    会田綱雄「醜聞」

 

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