平成26年7月29日(火)  目次へ  前回に戻る

←元気だったころの肝冷斎3号(想像図)

8号です。わずか一日でもうだめになってきている。

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何代か前の肝冷斎(2号か3号ぐらいであろうか)が読んでいたと思しき「太平廣記」巻463の中に、「名著!感動!」と書き込みのある一条がございました。

読んでみます。

真臘国有葛浪山、高万丈。

真臘国に葛浪なる山有り、高さ万丈なり。

クメールの国に葛浪(かつろう)という山がある。山の高さは一万丈、というから、18000メートルぐらいある。

この山の中腹に洞穴があって、ここに

先有浪鳥。

先に浪鳥有り。

以前、浪鳥という鳥が棲んでいた。

この鳥、

状似老鴟、大如駱駝。

状は老鴟(し)に似、大は駱駝の如し。

「鴟」(シ)は「とび」「みみずく」「みそさざい」のどれか、ですが、本来一字で使うときは「とび」だと思いますので、「とび」と訳します。

すがたは年老いたトビに似ているが、その大きさたるやラクダほどもあった。

この鳥は、

人過、即攫而食之、騰空而去。

人過(よ)ぎれば即ち攫(さら)いてこれを食らい、空に騰がりて去る。

山の麓を人が通り過ぎるのを見かけると、たちまち空から降りてきてこれを摑み、すぐに空高く昇って逃げ去ってしまう。そして捕らえた人を食べるのである。

ニンゲンは美味しいのでしょうね。

ひとびと、この鳥にたいへん苦しんだ。

そこで真臘(クメール)の王さまに「おたすけください」と頼み込んだ。

真臘王取大牛肉、中安小剣子、両頭尖利。

真臘王、大牛肉を取り、中に小剣子の両頭尖利なるを安んず。

クメール王は巨大なウシの肉を取り寄せ、その中に両側にぎとぎとの切っ先のある剣を埋め込んだ。

そして家来の一人に、

「これ、おまえ、この牛肉をアタマに載せて葛浪山の下に行ってまいれ」

と命じた。

「え? え? あっしが?」

とイヤです。食べられるかも知れませんから。しかし王さまの命令なので断るとコロされますから、

「わ、わかりやした」

と従わなければなりません。

こうして、

令人載行。

人をして載せ行かしむ。

その人にアタマに牛肉を載せて、山の下を行かせた。

果たして、途上で空に大きな影が現れました。

「出たーーー!出ましたよーーー!」

その人、逃げようとしますが、鳥は空から狙いをつけていますから、どちらに逃げたらいいかもわからない。その場にたちすくむうちに、ざざざーーーとそれは風の音をさせて降りて来まして、

「うひゃー」

鳥攫而呑之。

鳥攫いてこれを呑む。

鳥は飛んできて、アタマの上に載せられていた牛肉をつかみ、それを一のみに呑み込んでしまった。

「お、うまくいった?」

鳥は咽喉から腹に剣が引っかかって、大いに苦しんでいるようである。くるくると錐揉みしながら崖地に降りて、ばたばたと羽をはばたかせ、一度、二度、と天地も裂けるばかりにけたたましく鳴き叫んだが、

乃死。

すなわち死す。

やがて死んで動かなくなった。

その後、

無復種矣。

また種無し。

その種類の鳥は二度と発見されていない。

されば、彼はたった一羽きりで、長く、孤独に生きていたのであろう。

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唐・張鷟「朝野僉載」に出る話だという。

う〜ん。いったいどこが「名著!感動!」なのかわかりかねます。しかしこれを読んだおかげで、ニンゲンより牛肉の方が美味らしい、ということはわかりました。

 

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