平成26年6月27日(金)  目次へ  前回に戻る

 

エラいひとの地位はどんなに盤石に見えても、不安定なものでございます。誰かの画策によって、あるいは自らの失策によって、あるいは特段の原因もなく、その地位を失ってしまうかも知れない。そんな危険と隣り合わせです。

そんな境遇を自覚しているみなさんに、お薦めの逸品。

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じゃーん。(ポケットから取り出す)

これぞ

警悪刀

でござる。

楊貴妃のおやじの楊玄琰が、若いころから愛用しておったという太刀じゃ。

玄琰は

毎出入於道途間、多佩此刀。

道途の間に出入するにつねに多くこの刀を佩く。

どこかに遠出するときには、たいていの場合この刀を腰につけていた。

すると、

或前有悪獣、盗賊、則所佩之刀鏗然有声、似警於人也。

あるいは前に悪獣・盗賊有れば、佩するところの刀、鏗然(こうぜん)として声有りて、人において警(いまし)むるに似たり。

前方に人に害をなす猛獣や待ち伏せている盗賊などがいると、腰に帯びたこの刀が「シャラン、シャラン」と金属音をさせて、まるで持ち主に警告を与えるかのように鳴りはじめるのである。

それによって何度も危機を免れたのだという。

後ろからやられるときはどうするのかな?どうしようもないのかな?

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五代・王仁裕「開元天宝遺事」巻上より。

この刀、もはや昆虫と化したわたくし肝冷斎には何の必要も無いものです。必要なひとに御譲りしますので、御伽衆派遣事務所に連絡されたい。ただし当選者の発表は発送を以て代えさせていただきますので念のため。

ちなみにおいらは今日はニンゲンに変装して十数年前の職場の同窓会に出場。みなさんエラくなっておられましたので、よく考えるとあの中にコレが必要なひとがいた?かも。

まことに

倚高才而玩世、背後須防射影之虫。掃」巻一より)

高才に倚りて世を玩べば、背後すべからく射影の虫を防ぐべし。

南方の水中には「短狐」(あるいは「蜮」(ヨク)とも「射工」ともいう)という生き物がいて、水辺に人影があると水中から砂を含んだ水を吹きだし、人を射る。この水には毒あってこれをかけられた者は須臾にして死ぬ、と言われるが、

高い才能を持っていて、それによって世の中を動かすほどの者は、背後の水中から毒水を吹きかけるイキモノを防ぐことを考えておかねばなりませんよ。

と申すとおりにございます。お気をおつけくださいますように。

 

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