平成26年4月30日(水)  目次へ  前回に戻る

 

自分より弱いと思っていたモノにやられることがありますよ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

宋のはじめころのことだと思いますが、

有寺僧、所住房前、有蜘蛛為網、其形絶大。

寺僧有り。住むところの房前に、蜘蛛の網を為し、その形絶大なる有り。

あるお寺に僧がいたが、彼の部屋の前に、蜘蛛が大きな巣を張ったことがあった。

「大きくて迷惑じゃのう」

僧は巣を掃ったのだが、よほど蝶や蜂などのかかりやすい通り道なのであろう、蜘蛛はすぐにまた巣を張りなおすのである。

そこで僧は蜘蛛を見かけると、

即以物戯打之。

即ち物を以て戯れにこれを打つ。

すぐに棒きれのようなものを手にして、殴りつけるようなふりをした。

何度かそんなことが続いたためであろう、

蜘蛛見僧来、即避隠。

蜘蛛、僧の来たるを見れば、即ち避隠す。

蜘蛛は、その僧のすがたを見ると、すぐに逃げ隠れるようになった。

僧の部屋の前に巣をかけることも無くなった。

「わはは、勝ったー」

と僧は喜んだものである。

数年後―--

僧はある日、熱を出して一人部屋で寝ていた。

すると、天井に蜘蛛が現れた。僧は熱に浮かされながら、

(あのときの蜘蛛かな?)

と思いながら見ていると、

蜘蛛乃下在牀、囓断僧喉成瘡。

蜘蛛すなわち牀に下り、僧の喉を囓断して瘡を成す。

蜘蛛は、すすーーと糸を吐いてベッドのところまで降りてくると、僧ののどのところをちくりと咬んだ。ためにそこには小さなキズができた。

蜘蛛はまたすすーーと天井に昇って行った。

「・・・というようなことがあったのじゃ。あるいは夢かも知れぬが」

同僚が食事を運んできてくれたとき、僧はそんな話をしていたのだが、

少頃而卒。

少頃にして卒す。

それからしばらくしたらもう死んでいた。

咬まれたところから青黒く染まり、死ぬ直前には体中が変色してしまっていたという。

思うに蜘蛛が怨みをはらしたのであろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

著者不詳「原化記」より(「太平廣記」巻178所収)。

この僧も自分より強大なおえらがただとか檀家だとかにヤラれて、その腹いせに自分より弱小だと思った蜘蛛を攻撃していたのかも知れません。しかし豈図らんや蜘蛛の方が強かった。こんなことになるぐらいなら蜘蛛を攻撃するのでなくおえらがたに逆襲した方がよかったのかも・・・。そう思うひとが出ないとも限らないので、おえらがたも気をつけてもらいたいものです。おいらは蜘蛛が僧のすがたを見て身を隠したように明日からしばらくいなくなりますので、次に会う日までによく反省しておいてくださいね。

 

表紙へ  次へ