平成26年2月17日(月)  目次へ  前回に戻る

 

今日も寒いです。山梨はさらにたいへんみたい。甲府にいるYT氏はバンメシが無いのでもう寝るそうです。

―――ふうん。バンメシが無いならホウトウを食べればいいじゃないの。ホウトウも無いならお酒を飲めばいいじゃないの。

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しかしながら、

夫酒醴者迫之飲愈不飲、恕之飲愈欲飲。

それ、酒醴なるものは、これに飲むを迫ればいよいよ飲まず、これに飲むを恕すればいよいよ飲まんと欲するなり。

さて、お酒というものは、飲まないやつに「飲め」と迫れば迫るほど飲まなくなる一方、飲むやつに「飲まなくてもいい」とゆるせばゆるすほど飲みたがるものである。

無理強いしてもなかなか飲むものではないのである。

「醴」は「甜い酒」。一夜でできる、ともいうので、甘酒の類。

このことから、賢者は、

抑人者人抑之、容人者人容之。

人を抑うる者は人もこれを抑え、人を容るる者は人もこれを容る。

相手を抑制しようとすると、相手も抑制してくる。相手を容認すると、相手も容認してくれる。

ということに気づくのである。

貸其死者楽其死、貸其輸者楽其輸。

その死を貸す者はその死を楽しみ、その輸を貸す者はその輸を楽しむ。

死にそうなところを救われた者は、救ってくれた者のために喜んで死ぬであろうし、財産を与えられた者は、与えてくれた者のために喜んで財産を援助してくれるであろう。

というような仕組みになっているのである。

すなわち、

所以民盗君之徳、君盗民之力。能知反復之道者、可以居兆民之職。

民の君の徳を盗み、君の民の力を盗む所以なり。よく反復の道を知る者は以て兆民の職に居るべし。

人民は君主の徳を利用し、君主は人民の力を利用するものなのだ。与えれば与えられる、ということをよく知る者は、人民どもを治める地位に就くことができる。

なるほど。(以上「酒醴」(酒について))

また―――

火は危険なものである。しかしながら、

民不怨火而怨使之禁火、民不怨盗而怨使之防盗。

民は火を怨まずしてこれに火を禁ぜしむるを怨み、民は盗を怨まずしてこれに盗を防がしむるを怨む。

人民というのは火を憎悪することはなく、「危険だから」と火を使わないようにさせる為政者を大いに憎む。同様に、人民はテロリストを憎悪することなく、テロリストを防ぐための警備を命ずる為政者を大いに憎むのである。

怪しからんことである。

そこで、

済民不如不済、愛民不如不愛。

民を済(すく)わんとするは済わざるにしかず、民をいとおしむは愛おしまざるにしかず。

人民を助けてやりたければ助けてやらない方がましであるし、人民に優しくしたければ突き放しておく方がましなのである。

見たまえ。天でさえ人民には手を焼いているではないか。

天有雨露所以招其怨、神受禱祈所以招其謗。

天に雨露有るはその怨みを招く所以にして、神の禱祈を受くるはその謗りを招く所以なり。

天は雨や露を降らすが、それが多いとか少ないとかで人民は怨むものである。神霊は人民の祈祷を受けて禍福を降すが、効き目がないとか思ったとおりでないとか文句をいわれるのである。

考えるに、

夫禁民火不如禁心火、防人盗不如防我盗。

それ、民に火を禁ずるは心火を禁ずるにしかず、人の盗を防ぐは我が盗を防ぐにしかず。

さてさて。人民に火を使わせないようにするぐらいなら、為政者の心に火をつけず、冷静な対応する方が大切である。外部からのテロルを防ぐために警備させるぐらいなら、為政者に人民からの理不尽な搾取をさせないようにする方が大切である。

其養民也如是。

それ、民を養うやかくの如し。

為政者が人民を満足させる、というのはこういうことなのであろう。

めんどくさそうなしごとですね。(以上「養民」(人民を満足させることについて))

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五代・譚峭「斉丘子」(「潭子化書」)巻三より。この本は五代十国・南唐のひと潭峭、字・景升が、唐の隠者・斉丘子に仮託して、道家の立場で人事や政治のことなどいろいろ説教をしているものである。道家なので、ものすごく単純化していえば「マキャベリズム」だと思っていただければいいのかな。斉丘子ではなく潭峭の著書だとバレているので「潭子化書」ともいいます。六巻約100カ条ぐらいもあって毎日こんなわかりづらい説教を何カ条も食らっていたらイヤになってメシも食えず眠れもしなくなってくるような本ですが、みなさんには今日のところは二カ条(「酒醴」と「養民」)だけにしておきますので、メシは食えるでしょうしぐっすり眠れるでしょう。

潭峭は後に河南の終南山に登り、さらに南山に移って丹薬を研究し、青城山に移ってついに仙去(仙人になってこの世から去ること)したという。

 

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