平成26年1月31日(金)  目次へ  前回に戻る

 

明日からキャンプイン。しかし、ああーううー、やる気ないー。

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ああ、とか、うう、といっている先例を探してみますと、こんなのがあった。「詩経」国風・秦風より「権輿」篇

於、我乎。夏屋渠渠、今也毎食無余。于嗟乎、不承権輿。

於、我乎。毎食四簋、今也毎食不飽。于嗟乎、不承権輿。

以上。二つのスタンザから成る短い詩である。

少しく語釈する。

「於」はもともと「烏」(カラス)の象形文字であるが、早くから仮借されて「〜において」「〜における」の意の前置詞、あるいは詩経の「於乎」、書経の「於戯」(「古文尚書」。今文尚書では「烏乎」)、後代においては「嗚呼」と書く嗟嘆の詞、訳して「ああ」とか「おお」とか「うう」という語として使われる。これが三文字になると、その後に出てくる「于嗟乎」となる。

「夏屋」は「大きな建物」の意。ただし、なぜ「夏屋」が大きな建物の意になるかは、「夏」自体が「大」の意である、とか、「夏」の時代には(その後の殷の時代に比べて)門を小さめに、建物を大きめに作ったからだ、とか諸説あります。

「渠渠」(きょきょ)は「蘧蘧」と同じく、高く大きなようすを表わすオノマトペ。

「権輿」(けんよ)は「始初」「はじめ」の意。なぜそんな意味になるか、については、一番有力なのは「カン・ユ」(カンは、弓へんに「雚」の上にさらにクサかんむり、という字。「ユ」はクサかんむりに「渝」。)という言葉の仮借である、という説である。この「カン・ユ」は「爾雅」で「(草木の)其の萌しをいう」とされているので、「はじめ」の意味になるのだ、というのである。ほかに、「はかり」の中で最初に造られたのは、おもりを使ったはかり(「権」)であり、乗り物の中で最初に造られたのは、ひとが持ち上げるこし(「輿」)であったから、「最初のもの」を「権・輿」というのだ、という説があるみたいですが、何となくムリヤリな感じがします。

「簋」(き)は飯等固形の穀物を調理して盛る食器。

以上を前提に、この「権輿」の詩を読み下すと、

ああ、我や。夏屋渠渠(きょきょ)たるに、今や毎食に余り無し。ああ、権輿を承けずなれり。

ああ、我や。毎食四簋たるに、今や毎食に飽かず。ああ、権輿を承けずなれり。

ああー、このわたしよ。(かつては)たかだかと聳える大きな家に住んでいたのに、今では毎度のメシがぎりぎりだ。ううー、以前とは違ってしまったなあ。

ああー、このわたしよ。(かつては)毎度のメシが四杯もあったのに、今では毎度のメシが腹いっぱいにならないのだ。ううー、以前とは違ってしまったなあ。

なんとなく身につまされる詩ですね。

毛氏の「詩序」によれば、この詩は

刺康公也。忘先君之旧臣、与賢者有始而無終也。

康公を刺すなり。先君の旧臣を忘れ、賢者と始めありて終わり無きなり。

秦の康公(在位前620〜前609)を批判したのである。康公は先代の穆公(前659〜前621)が大切にした臣下のことをないがしろにし、賢者たちに最初はよかったのに、後ではイヤな思いをさせた。(そのことを批判したのである。)

のだそうです。

「毛序」は、「詩」はすべて「具体的な歴史的事実としての為政者への批判」でなければならない、という「決め」にもとづいて註釈されているので、その観点から「康公への批判」ということにしているわけですが、詩を読む限り、始め有りて終わり無し、「以前はよかったけど今はよくない」という一般的な愚痴しか読み取れないので、

没落貴族回想当年生活而自傷的詩。

没落貴族、当年の生活を回想して自ら傷むの詩なり。

没落した貴族が、以前のいい生活を回想して、みずから悲しんだうたであろう。

とする現代の階級史観的解釈(「詩経注析」程俊英・蒋見元1987中華書局)の方がまだよろしい。

ただし、肝冷斎一派はさらに進んで、神殿での演劇か宮廷の宴会などで演ぜられた寸劇の中での、「零落した神霊」や「没落貴族」が、ユーモラスな所作を伴いながら歌った歌であったのではないか、と想像しておりますが・・・。

それよりこの詩には、次のようなたいへん重要な指摘があります。

清・方玉潤曰く

起似居食双題、下乃単承側重食一面。

起は居・食双題なるがごときも、下はすなわち単承して食の一面を側重す。

第一連では、住宅のことと食い物のことと、二つの問題で文句を言っているが、第二連になるとそのうちの一方、すなわち食い物のことだけを重点的に取り上げているのである。「詩経原始」

住むところと食い物、いずれも大重要問題でありますが、寝る方は洞窟や土管の中もある、やはりなんといっても食い物のことは重大なのである、ということを、このわずか二連の詩の中で歌いこんでいるのだ。

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ああー。ううー。あと五十六時間ぐらいでまた月曜日の出勤時間が・・・。

 

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