平成25年10月25日(金)  目次へ  前回に戻る

 

今日も頭痛。都内は台風ではなく秋雨前線がしとしと。明日・明後日はともかくその次の日はもう月曜。絶望。

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晋の桓温が蜀に攻め入ったとき。

長江を遡って蜀に攻め入るには、三峡の急流を船で昇っていくことになる。(現代では三峡ダムがあるあたり)

至三峡中、部伍中有得猨子者。

三峡中に至るに、部伍中に猨子を得る者あり。

三峡の峡谷に入ったころ、部隊の将校にサルの子を捕まえた者があった。

「なかなか可愛いものだな」

と、そのまま船につないで連れて行った。(別にいじめたりしたわけではありません)

すると、

其母縁岸哀号、行百余里不去。

その母、岸に縁りて哀号し、百余里を行きて去らず。

そいつの母ざるが、あわれぶかく泣き叫びながら、岸辺をどこまでも追いかけてきた。百里(50〜60キロ)以上の距離を離れることがなかった。

やがて

遂跳上船、至便絶。

遂に跳びて船に上るも、すなわち絶するに至る。

とうとうある場所で船に飛び移ってきたが、そこで力尽きて、死んでしまった。

船の人たち、

「ずいぶん悲しい思いをしたのであろう」

と、試みに

破視其腹中、腸皆寸寸断。

その腹中を破りて視るに、腸みな寸寸に断てり。

母ザルのむくろの腹を裂いて見たところ、やはりはらわたはあちこちで一寸刻みに断裂していた。

「かわいそうなことをしたかなあ・・・」

将校は自分の出来心で子ザルを連れて来てしまったことを後悔したのであった。

桓温というひとはいろいろ恐ろしい人であるが、人間としてのぬくもりだけは忘れなかったひとだ。

公聞之怒、命黜其人。

公、これを聞きて怒り、命じてその人を黜(しりぞ)く。

桓将軍はこのことを聞いて大いに怒り、その人を部隊から追い出してしまった。

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「世説新語」黜免篇より。

これが「断腸の思い」という成語の故事です。なんとなくみんなかわいそうで、ニンゲンがイヤになる昨日のおさるさんに比べますと、なんか読後さわやか?というか、しみじみしたものが残る・・・感じがしませんか。

まあ、よろしい。

いずれにせよわずか60時間以内に迫った月曜朝のことを思うと、もう断腸の思いです。

蜀国曾聴子規鳥。  蜀国にかつて子規鳥を聴き、

宣城還看杜鵑花。  宣城にまた杜鵑花を看る。

一叫一回腸一断、  一叫 一回 腸一断、

三春三月憶三巴。  三春 三月 三巴を憶う。

 ふるさとの蜀の地にいたとき、よくホトトギスの悲痛な声を聞いたものだが、

 今日端なくも遠く離れた宣城の地で、「ホトトギスの花」という赤い花を見た。

 ああ。ホトトギスのひとたび啼き、一廻り飛ぶを思い出したら(、それだけでわたしの思いは極まって)、はらわたが一か所断裂した。

 ああ。三か月の春の中の三月め、春のたけなわに、三峡・巴州の地(蜀)を思い出してしまったよ。

李白「宣城にて杜鵑花を看る」。おいらもウチナーに帰りたいでっちゅ。ルートビア飲んで、はらわたちぎれる。

 

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