平成25年10月21日(月)  目次へ  前回に戻る

 

東北楽天ゴールデンイーグルスが日本シリーズ出場権を得られました。おめでとうございます。十年前、分配ドラフトでも不利な扱いを受け、「勝率一割八分(1勝5敗)」(毎週、岩隈の先発時にしか勝てない)と嘲笑されたあのイーグルスが、と思うと感無量ですね。目下のモノをいつまでも見下していてはいけないのでございますよ。

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宋代の武官は、任官するとまず東・西・横の三つの「班」のいずれかに属し、その中で認められた者が将官の地位に昇って行くことになっておりました。この三つの班に所属する若手の武官を「三班奉職」といいます。もと五代のころには「殿前承旨」と呼ばれていたものですが、宋・太宗の淳化二年(991)に「殿前承旨を改めて三班奉職と為す」と詔があって変更されたものです。我が国でいえば「北面の武士」のようなものかと思いますが、宋の太祖ももともと周・武宗の殿前承旨から出世してついに帝位に着いておりますから、武官にとっては立派な登竜門であった。

五代の戦乱期には武官が重用されていましたので、科挙によって選抜された文官からみると、ライバルたちの集まりでもありました。

太宗皇帝が天下のことを広くお知りになりたいとお考えになり、

雖疎遠小臣、皆得登対。

疎遠の小臣といえども、みな登対を得。

遠い地に任官しているような下っ端役人であっても、誰でも意見を言ってくれれば聴きたい。

と詔しようとしたとき、文官の王禹偁

大以為不可。

大いに以て不可と為す。

大反対で絶対ダメだ、との意見であった。

彼には、当時はまだ宋による統一がなされた直後、宰相や参知政事ら閣僚クラスを通じずに意見を言わせたら政府は大混乱に陥り、せっかく治まった天下が再び乱れるのではないかという心配があったのでございますが、特に長い戦乱の間、力を持っていた武官の意見を重用することへの懸念から、

至如三班奉職、其卑賤可知、云々。

三班奉職、その卑賤知るべきが如きに至らん。云々。

「三班奉職のようなしもじもにまで発言を許してその内容を見れば、かれらのレベルの低さを知るべきでございましょう・・・・・・」

と上疏し、一方からは「よくぞ言った」という意見、また一方からは「三班奉職をそこまで貶めるとは・・・」という意見があって、

当時盛伝其語。

当時、盛んにその語を伝う。

そのころ、その言葉はずいぶん評判になった。

のでございました。

結局、帝は、王禹偁らの反対にもかかわらず、天下の役人すべてに意見があれば提出するように詔がなされたのであった・・・・。

それから数年後、王禹偁は徐鉉に関するスキャンダルに巻き込まれて失脚し、商州の団練副使という、民間防衛隊の教官のような小職に貶された。

そんなある日、上官である商州知事に従って州府内のお寺で行われた公式行事(先帝の忌日の祀り)に出席した。

行事は朝早くから行われる。

天未明、彷彿見一人紫袍秉笏、立於仏殿之前。

天いまだ明らかならず、彷彿として一人の紫袍にして笏を秉り、仏殿の前に立つを見る。

まだ暗いうちなのではっきりと見えないのだが、紫の上着を着て笏を手にした人がひとり、仏殿の前に立っているのが見えた。

彼が州知事以下の席次などを指図している。いったいどういう官職の人かわからないが、ずいぶん堂堂としており、風采も立派なので、王禹偁は高位にあるひとなのだろうと思いながら、挨拶した。

そのひと、相手が王禹偁だと知ると、微笑しながら、

某即可知。

某は即ち「知るべき」なり。

わたしこそ、例の「知るべき」さんですよ。

と答えたのである。

「はあ?」

禹偁、何のことやらわからず、その意を問うに、そのひと言う、

公嘗疏言三班奉職、卑賤可知。某今官為借職、是即可知也。

公、かつて疏言して「三班奉職、卑賤知るべき」とす。某、今、官は借職を為せば、これ即ち「知るべき」なり。

あなたはかつて上書して「三班奉職のレベルの低さ、知るべき」とおっしゃられた。わたしは今その三班の借職です。ということはその「知るべき」なわけです。

と。(「三班借職」は、はじめて「三班奉職」になった初任のひとのこと。「見習い武官」)

禹偁はそう言われて、憮然として押し黙ったという。

後に王禹偁は呼びもどされて再び重用された(が、その官にあるや他の勢力と妥協せず剛直を以て称せられたので、このこともあまり反省はしなかったもようである)。

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宋・魏泰「東軒筆録」より(「宋人軼事彙編」巻五所収)。・・・ということで、見下しているといつか見返されるということですよ、ソフトバンクとかハムとかそういうみなさん。

―――ところで、わたくし、硫黄濃度の高い恐山から東京に来て、大気中の硫黄濃度が薄まったためか、一日中、あたまの頭痛がいたくて苦しんでおります。今日は昼間、岡本全勝さん(←そういえば楽天ファンのはず)が弊社にお見えになり、わたくしの職場にもお寄りくださいましたが、あたまの頭痛がいたいのでぼんやりしていたときでございましたので、まともな受け答えもできず申し訳ございませんでした。

まだ転生後二日ですからニンゲンの会話などには馴れていないので、しかたないのでちゅ。うっしっし。

 

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