平成25年2月7日(木)  目次へ  前回に戻る

 

偽のシゴトして生きるの疲れた。もう「自重」せずにはやく野球ばかり観て暮らしたいよー。

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と、そんなわたしのもとへ、清のひと、呉穀人先生から手紙が来た。

読みます。

・・・お返事もしてないうちにまたお手紙いただきました。お気持ちの籠った内容に心揺さぶられ、時には慰められ、時には感じ入っております。

(? 手紙書いた覚え無いのですが・・・)

さてさて、

聞今年北雪早寒。伏稔侍直之余、起居清豫、洵足以奉龍光、歌燕喜也。

聞くならく、今年は北雪早寒と。伏して稔(おも)うに侍直の余、起居は清豫にして、まことに以て龍光を奉じ、燕喜を歌うに足らん。

聞いたところでは、今年の冬は華北では早くから雪が降り、寒波が至っていると。とはいえ、朝廷の御仕事で昼に夜に出勤なさっておられるほかは、日すがすがしく楽しい日々であろうかと思います。ほんとうに龍の珠の光のような帝都の栄華を仰ぎ見、春の宴楽の喜びの歌を唱っておられることと存じます。

(はあ? こちらは雪なんか降ってませんよ・・・)

また、著書をお示しいただき、その言葉づかいの高踏で深遠なることに感服しました。味わいは蘇眉山(蘇東坡)に似るものの、すべてはあなたの胸の中から湧き出るもの、他人のたやすく推し測り窺うことのできるものではありますまい。

(およよ? 肝冷斎雑志1・2を入手した? 蘇東坡に似るって、そんな立派なものとも思えないが・・・)

僕支離已久、老病日深、不能更求其弦外之旨。加以引伸姑就其往時情好之所同者、而略言之、度覧者定能知我心耳。

僕、支離すでに久しくして老病日に深く、さらにその弦外の旨を求むるあたわず。加うるに引伸を以て、しばらくその往時情好の同じきところの者に就きてこれを略言するに、覧者の定めてよく我が心を知るのみなるを度(はか)る。

わたくしはもう長い間軀が自由に動かず、老いて病は日に日に進む状況、あなたの著書の中のことばになっていない趣旨を読み解こうとすることができません。そこでわたくしと以前から趣味嗜好のよく似た者に読ませて感想を聴取しましたが、彼の言うだいたいのところを申し上げると、やはり彼もわたくしと同じような感想を述べておりました。

(いや、そんな深い趣旨などありませんが・・・)

細かいところは愚弟が都に戻ったときにまた話すことでございましょう。

諸惟千万為国自重、不宣。

これ、千万、国のために自重せよ、不宣。

ただただ、あなたは国家のために役に立つひとですから、変なことで批判されないようにご自分を大切になさってください。これにて筆を擱きます。

(はあ? 自分を大切にした方がいいですか。わたしごときが「自重」して国のためになるのかなあ・・・)

・・・・と思いながら、よくよく宛先を見てみましたら、「寄黄左田」とあり。

わたくしではなく、当時北京にいた友人の黄左田先生への手紙だということがわかりました。わたくしは自重しなくてもいいみたい。

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「清儒尺牘」巻上より。

ちなみに文末の「これにて筆を擱きます」と訳した「不宣」について。

無理に訓ずれば「つくさず」となります。

清・漁洋山人・王子禎(→「池北偶談」参照)「香祖筆記」に曰く、

宋人書簡、尊与卑曰不具、以卑上尊曰不備、朋友交馳曰不宣。

宋人の書簡、尊の卑に与うるには「具(そなわ)らず」と曰い、卑を以て尊に上(たてま)つるには「備わらず」と曰い、朋友こもごもに馳するには「宣(つ)くさず」と曰う。

宋代の人たちは手紙の末尾に、上の人が目下の人に与える手紙の場合は「不完全なものだが」と書き、下の者からエラい人に奉る手紙の場合は「不行き届きなものですが」と書き、同格の者どうしでやりとりする手紙の場合には「言い尽くせていないが」と書いた。

のだそうで、これを見れば黄左田と呉穀山は同格の友人同士であったことがわかりますね。

そのもとを正せば、三国の楊修が目上のひと(臨淄侯)送った手紙に、

反答造次、不能宣備、修、死罪、死罪。

反答するに造次にして宣備するあたわず、修、死罪なり死罪なり。

(ご質問に)とりあえずのお答えをいたしましたが、大急ぎで書きましたので、すべてを言い尽くすことができておりません。(たいへん申し訳なく、この罪によって)わたくし楊修は死罪になるぐらいであります、死罪になるぐらいであります。

と書いたのがはじまりだということである。

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今日も「自重」せずにいろんな人に二月開戦説をぶってしまいました。ちょっと「このひと○チガイでは?」と思われ始めているかも。死罪死罪。でもとにかくキナくさいですよ。・・・ところで「キナくさい」の「キナ」ってなんですかね?
 

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