平成22年8月16日(月)  目次へ  前回に戻る

○お盆過ぎむしむし多くなりにけり

と発句しながら我が肝冷斎にやってきたのは、何を隠そう放浪の詩人・川端木偶翁である。

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「翁よ、久しぶりですなあ」

とお茶を出しますと、木偶翁

○酒は無く茶を出すほどの友である

「いや、これは気が利きませんでしたな」

とわしが焼酎を出しますと、木偶翁

○火の国の火の酒飲めばうひゃひゃなり

と答えて生のままでお飲みになった。

飲んだあと

○酒のめばまるまる眠る団子虫

と発句してそのまま眠ってしまった。

翌朝、わしがごろごろと起き出してきますと、翁はすでに旅立ったあとである。

その枕元に一枚の和紙ありて、墨跡くろぐろと一詩がしたためられていた。

為狂為賊任他評、 狂と為すも賊と為すも他評に任さん、

幾歳妖雲一旦晴。 幾歳の妖雲、一旦に晴る。

正是桜花好時節、 正にこれ桜花の好時節、

桜田門外血如桜。 桜田門外 血は桜の如し。

 おかしいといわれようと悪党といわれようとそれはおまえさんたちのご評価にお任せしますよ。

 わしは今、何年も世を覆うてきたあやしい雲が、あの朝に晴れ渡ったことに満足しています。(それにはわしも力を貸したんじゃ。)

 ときはまさに桜花咲くよき季節(にわしは死に行くのだが)、

 桜田門外の雪の上に桜花咲くように血を流した、あの朝のことを思い出す。

むむ、これはマズい。翁は何かを仕出かす気ではないか!

・・・と心配するひといるかも知れませんが、これは水戸の志士・黒沢忠三郎「絶命詞」で、彼は桜田門外の変に関与して死ぬ前に書いたらしい。翁は字の練習のためにそれを単に写しただけで、何かでかいことをするつもりは無いと思われますので、当局のみなさまはご安心くださいネ。

 

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