平成２１年　７月１２日（日）　　目次へ　　一昨日に戻る

池北偶談（巻二十二・談異三）より王延��のお話の続きである。

「あっはっはっはっは・・・」

と高笑いした王延�普A

「実はおまえさんから「史記」を借りてすぐに、

鳩集善工、就宋版本摸刻、甫一月而畢工。

善工を鳩集して宋版本に就きて摸刻し、一月に甫（わた）りて工を畢えたり。

優秀といわれる職人たちを集め、宋版本を元にしてそれを模して版木を彫らせ、一ヶ月でなんとか仕事を終えさせたのだ。」

それから、王延�浮ﾍ突然、棒読みするかのように、

「おお、しまったー。摸刻した数十部の本とおまえさんから借りた元本とが混ざってしまって、どれがおまえさんに返すべき本かわからなくなってしまったわいー。しかたない、おまえさんに元本の代金を弁償しなくてはならなくなったのうー」

と言い、にやりと笑って、

君意在獲三百金耳。今如数予君。且為君書幻千万億化身矣。

君の意は三百金を獲るにあるのみ。今、数の如く君に予（あた）えん。かつ、君の書をして幻じて千万億化身と為さしむるなり。

「おまえさんのもともとの意思は、三百金が欲しい、ということだったはずだ。今、そのとおりの金をおまえさんに与えよう。それに加えて、おまえさんの大切な書は、幻化して何千何万もの分身を作り出して、後の世のひとびとの役に立つことになった、というわけだ」

「なるほど、これはありがたい」

其人、大喜過望。

そのひと、望みに過ぎたるを大いに喜べり。

その男は、希望以上のことになった、と大いに喜んだのであった。

ちなみにこのとき印刷されたのが、現在（清代）に至るまで「史記」の最善本とされる「震沢王氏摸刻本」といわれる版である。

――また、これとは別のときのこと、王延�浮ﾌもとに琥珀を持ち込んできた者があった。（琥珀は松脂の化石化したものである）

この琥珀、

中有蜘蛛、形状如生。

中に蜘蛛あり、形状生けるが如し。

中に、（何万年も前に松脂の中に封じ込められた）クモが入っており、その姿はどう見ても生きているように見えた。

持ち込んで来た者は、「生きたクモを封じ込めた珍品、ぜひ百金でお買い上げ願いたい」という。

延�譜烽､、

蛛果生耶。

蛛、果たして生けるや。

「このクモは本当に生きているのか」

売者言う、

然。

然り。

もちろんでございます。

「よし、わかった」

延�浮､なずき、

「おまえの言うとおりであれば百金を払おう」

と言うや否や、

手砕之、果有生蛛自内躍出、行几上数巡、見風化為水。

これを手砕するに、果たして生蛛の内より躍出し、几上を行くこと数巡、風を見て化して水と為る。

ただちにその琥珀を自らの手で砕いてしまった。

中からはクモが飛び出したが、このクモは生きており、机の上をよろよろと数回経巡り、やがて外気に触れたためか、液化して溶けてしまった。

「お前の勝ちじゃ、わははははは・・・」

延�普A高笑して

乃立以百金償之。

すなわち立ちどころに百金を以てこれを償う。

即座に百金を持ってこさせて、茫然としている売者に与えた。

其豪快如此。

その豪快、かくの如し。

その豪放で快活なこと、このようであったのである。

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ということですが、わしにはクモの生きていたことが、不思議でなりません。チュウゴクは広いので不思議なことがあるのでしょうなあ。

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