↑勉強が大切じゃわん。

 

平成21年 3月10日(火)  目次へ  昨日に戻る

今日はかなりエラいひとと飲食してきた。緊張したです。ただし、アルコールが少し入ったので少しいい気になってしゃべってしまった。醒めて来たので自己嫌悪してきました。ぎぎぎ。

ああ、失敗無く、非の打ち所も無い立派なひととなりたいものじゃ。

・・・以上が前置きでした。

いにしえの人もそのように思って努力したものらしいが、なかなかなれないもののようで、賀医閭先生の門人が道で先生とすれ違ったとき、先生だと気づかずに挨拶をし忘れたのだそうである。そのひと、後で知人からそのことを指摘され、慌てて先生のところに飛んできて非礼を詫びた。

これに対して先生、笑って許す・・・などということはありませんでした。厳格な面持ちで曰く、

為学須躬行、躬行須謹隠微。小小礼儀、尚守不得、更説甚躬行。於顕処尚如此、則隠微可知矣。

学を為すにはすべからく躬行(きゅうこう)すべく、躬行はすべからく隠微を謹むべきなり。小々の礼儀すらなお守り得ず、更に甚(なん)の躬行を説かんや。顕処においてなおかくの如ければ、隠微知るべきなり。

我が儒学の学問というのは、(空理空論ではなく)自己の実行が無ければならぬ。自己の実行の際には、隠れたわずかなところをきちんとやらねばならぬ。ところが、君はどういうことかね。挨拶という小さな礼儀さえできなかったのだ。それより以上の実行のことが何か語れるかね。また、ひとに見え見えのところでさえきちんとできなかったのだ。隠れたわずかなところでどれだけ手を抜いているか、すぐにわかってしまったわい。

何という厳しい学問であろうか。門弟は恐懼して為す術なかったという。

先生はかように厳しいひとなのですが、自らの地位や権威を高めようというようなことに貪欲であったのではない。先生は何かに貪欲であることについて批判的でさえあった。

ある日、先生は門弟たちに、

「おまえたちは、土・石・草・木と鳥獣とではどちらが優れていると思うか」

と問うたことがあった。

門弟たちは、

「土・石・草・木は動くことができません。それに比べれば鳥獣の方が優れているのではないでしょうか」

と答えた。

先生、曰く、

静無資於動、動有資於静。凡理皆如此。如草木土石是静物、便皆自足、不資於動物。如鳥獣之類、便須食草棲木矣。故凡静者多自給、而動者多求取。

静は動に資(と)ること無く、動は静に資ること有り。およそ理はみなかくの如し。草木土石の如くはこれ静物にして、すなわち皆自足し、動物に資(と)らず。鳥獣の類の如きはすなわちすべからく草を食い木に棲むなり。故におよそ静者は多く自給し、動者は多く求取す。

静かなものは動いているものから奪ってくることはない。動いているものは静かなものから奪ってくることがある。

これが自然のことわりというものじゃ。

草・木・土・石などは静かで動かないものだから、すべて自分で足りており、動くものから何かを得てくる、ということはない。鳥や獣のごときは、草を食い木に棲まねば生きていけないのじゃ。静かなるものは自分だけでやっていけるが、動くものは他者から求めねばやっていけない。

そして、ぎろりと目を光らせて教えた。

故人之寡欲者、多本於安静。而躁動営営者、必多貪求也。

故にひとの寡欲なる者は多く安静に本づくなり。躁動して営々たる者は、必ず多く貪ぼり求むるなり。

そのとおり、ニンゲンについても、欲望の少ないのはたいてい安らかで静かにしているやつじゃ。うるさく動いて何かをしているものは、たいてい貪欲で求めることの多いニンゲンである。

「どちらが優れているかは、明らかではないか」

と言うのであった。

ほかにもいろいろ説教はあるのですが、もう一つだけ紹介しますと、

教諸女十二条。

諸女に十二条を教う。

娘や姪たちに教えて曰く、「十二条を学びなされい」と。

十二条とは、

1.安祥恭謹。(祥(さいわい)に安んじて恭(うやうや)しく謹んであれ。)

悪いことが無い状況に安んじ、いつも恭順で慎み深くしなされ。

2.承祭祀以厳。(祭祀を承くるには厳を以てせよ。)
ご先祖さまの法事のときには、おごそかにしなされ。

3.奉舅姑以孝。(舅姑を奉ずるには孝を以てせよ。)

しゅうと・しゅうとめにお仕えするに当っては、孝行心で尽くしなされ。

4.事丈夫以礼。(丈夫に事(つか)うるには礼を以てせよ。)
だんなのお世話をする際には、礼儀を守ってなれなれしくしないようにしなされ。

5.待娣娰以和。(娣娰(ていじ)を待つには和を以てせよ。)
だんなの姉妹や従姉妹とお付き合いするにはにこやかにしなされ。

6.教子女以正。(子女を教うるには正を以てせよ。)
男の子・女の子を教育するに当っては正しく教えなされ。

7.撫婢僕以恩。(婢僕を撫するには恩を以てせよ。)
下女・下男を使うには恩愛の心を持つようにしなされ。

8.接親戚以敬。(親戚に接するには敬を以てせよ。)
親類縁者とお付き合いするには尊敬の心でやりなされ。

9.聴善言以喜。(善言を聴くには喜びを以てせよ。)
忠告をしてもらえたときはうれしそうにしなされ。

10.戒邪妄以誠。(邪妄を戒むるには誠を以てせよ。)
よこしまな悪い行いをした者を注意するときには誠実にやりなされ。

11.務紡織以勤。(紡織を務むるには勤を以てせよ。)
糸つむぎ・機織、すなわち家内産業に従事するには勤勉にしなされ。

12.用財物以倹。(財物を用うるには倹を以てせよ。)

   家の財産を使って何かをするときには、できるだけケチりなされ。

である。

「なるほど、勉強になった。よし、うちの娘もこれで育てるぞ!」

「いえ、タクの娘こそこれで育てますの!」

と言うようなひとがいたら教えてください。表彰状を差し上げます。(わたくし的には他のは何とかなっても、ゲンダイとなっては7がありえないような気がします。炊飯器や掃除機を優しく扱う、ということになるのかな。)

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以上は「明儒学案」巻六所収の「医閭先生言行録」に拠った。

 

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