令和2年6月19日(金)  目次へ  前回に戻る

朝焼けっぽい色に撮れました。森と泉に囲まれて静かに眠りたいものでぶー。夜食つきで。

わしの本体が現世にいると思っている方はおりますまい。

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すでに湖と山に囲まれた地方に隠れ住んでいるのである。

湖山之佳、無如清暁。

湖山の佳は、清暁に如(し)くは無し。

湖と山々のすばらしさは、すがすがしい夜明け時以上のものはござらんよ。

特にこの初夏の時節、

乗月至館、景生残夜、水映岑楼、而翠黛臨階、流水吹袂。

月に乗じて館に至るに、景は残夜に生じ、水は岑楼に映り、而して翠黛は階に臨み、流水は袂を吹く。

月が出ていたのでそれを追いかけて出かけ、別荘のあたりを通りかかると、影絵のような建物の姿が薄らいできた夜の中に浮かび上がり、湖水は高い楼閣にかすかな光を投げかけ、そして美しいひとの点じる緑の眉墨のような山影が、きざはしにのしかかり、小川の流れが伴う風が、わたしのたもとを吹く過ぎていく。

そのとき、

鶯声鳥韻、催起閧然。

鶯声と鳥韻、起きんことを閧然(こうぜん)と催せり。

ウグイスの声、鳥の唄、騒ぎ立てて人を目覚めさせようとするのだ。

「閧然」(こうぜん)は「(勝どきのように)どよもす、騒ぎ立てる」ことです。

ひとびとが眠りから醒めるころ、わたしは、

披衣歩林中、則曙光薄戸、明霞射几、軽風微散。

衣を披て林中を歩めば、すなわち曙光の戸に薄(せま)り、明霞は几を射、軽風は微かに散ず。

軽い上衣を引っ掛けて、林の中を歩いていく。あけぼの光は戸に当たり、朝もやを通して、ぼんやりと(書斎の)机に差し込んでいる。少し風が吹いて、もやをだんだんと散らしていく。

そのとき、ごらんなされ。

海旭乍来、見沿庭夏草霏霏、明媚如織。

海旭たちまち来たりて、庭に沿いて夏草の霏霏たるを見るに、明媚として織るが如し。

湖の向こうに朝日が突然出て、庭に沿って夏草が生い茂っているのが見え、明るさの中でまるで織物のように美しい。

遠岫朗潤出沐、長江浩潢無涯。嵐光晴気、巻舒不一。

遠岫(えんしゅう)は朗潤として沐を出で、長江は浩潢(こうこう)として涯無し。嵐光と晴気と、巻舒一ならず。

遠い嶺は明朗として潤いを含んで、まるでお風呂上りのようである。大河はひろびろとして、果て知れない。雲は雨を呼ぶように光ったり、晴れの気を帯びたり、縮んだり広がったりまだその方向を定めていない。

うーん。

大是奇絶。

大いにこれ奇絶なり。

二度と無いような、たいへんな絶景である。

こちらの世界では早起きしてるんです。

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「酔古堂剣掃」巻八「奇」より。現世から離れた彼の世は、「ひとの声せぬあかときに、ほのかに夢に見えたまふ」ものなのじゃ。ホントはこちらの世界に棲んでいるので、みなさんも遊びに来てください。

 

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