令和2年2月3日(月)  目次へ  前回に戻る

現実め、これでもくらえ!

今日は土曜日なのに、みんなフェイクを信じて月曜日だと思って出勤しているようです。真実に気づいて欲しいなあ。

そういえば今日は2月3日の土曜日、節分なので、鬼の話でもしましょう。

・・・・・・・・・・・・・・・

清の時代、北京での出来事です。

御史の馬静山の家で、

一僕忽発狂。

一僕忽ち発狂す。

下僕の一人が突然発狂した。

何かわけのわからない叫び声をあげたかと思うと、

自撾曰我雖落拓以死、究是衣冠。何物小人、乃不避路。今若不懲爾、竟忘為下賤。

自ら撾(う)ちて曰く、「我、落拓以て死すといえども、究むればこれ衣冠なり。何物ぞ小人、すなわち路を避けざる。今、もし爾を懲らさずんば、ついに下賤たるを忘れん」と。

自分で自分を殴りつけ、

「わしは・・・わしはな、確かに落ちぶれて死んだとはいっても、本来は「衣冠の人」だったんじゃぞ。それを、おまえのような下らんやつが、どうして道を避けようとしないのじゃ!(ええい、こうしてやる。ぼかん。)今、ここでおまえを懲らしめなければ、いずれは自分が下賤の身であることを忘れてしまうといかんからな!」

と言い始めたのである。

「衣冠」というのは、礼に定められた立派な衣服と冠を身に着ける者ということで、書を読み役人になるような、要するに紳士の階級のひとです。

下僕の声は、明らかに普段と違う。何者かに憑りつかれたようだ。

ぼかん。ぼかん。

「こら、やめろ」

と回りの者が取り押さえようとしたが、すごい力で振りほどいて、また

ぼかん。ぼかん。

自撾至面破鼻血。

自ら撾ちて面破れ鼻血するに至る。

自分で自分を殴り続けて、顔は傷つき鼻から血を流し始めた。

「どうしたのじゃどうしたのじゃどうしたのじゃ」

馬静山もやってきて、周りの者から事情を聴くと、「うーん、そうか、なるほどなるほどなるほど」と頷いて、下僕に静かに話しかけた。

君白昼現形耶。亦忘幽明異路。君隠形耶、則君能見此輩、此輩不能見君。何以相避。

君、白昼形を現わすや。また幽明の異路なるを忘れたるか。君、形を隠せるや、すなわち君はよく此の輩を見るも、此の輩は君を見るあたわず。何を以て相避けんや。

「あなたは、白昼姿をお見せになったのですかな。それならば、幽霊の世界とこの世の世界とは区別されているということをお忘れになったのではございますまいか。逆にあならが姿を見せずにいたのだとすると、あなたはこいつらを見ることができましょうが、こいつらはあなたを見ることができません。どうしてお互いに避けることができましょうか」

下僕はそれを聞いて、自分を殴るのを止めた。

そして、

俄如昏睡、少頃醒而復常。

俄かに昏睡するが如く、少頃にして醒めて常に復す。

突然気を失って倒れてしまった。しばらくすると意識を取り戻し、普段どおりになった。

―――以上、北京から帰ってきた蘇州・仁和の周樹棠が最新のニュースだ、といって教えてくれたのである。

「それはよかったなあ」

とわたしは言った。

此衣冠鬼与之論理即解。若衣冠小人、則恐未然矣。

この衣冠鬼、これと理を論ずるに即ち解す。衣冠の小人のごときは、すなわち恐るらくはいまだ然らず。

「その衣冠の鬼(幽霊)は、理屈を言えばわかってくれるやつだったんだからな。(お役所やらその周辺にいる)立派な衣冠を着けた下らんやつらは、そうではないぞ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

清・朱海「妄妄録」巻七より。チャイナの「鬼」は幽霊ですから、角とか生えてないし、金棒持ったり、こぶとりじいさんのこぶを取ったり、泣いたりしないから、怪しからん。

日本的鬼のみなさんをカレンダーにしてみたのだが、節分は今日で終わってしまう。

 

次へ