平成31年4月8日(月)  目次へ  前回に戻る

悪しかしないデビルの道だが、善いこともしなければなりませんぞ。

本日はおシャカさまのお誕生日で花祭りなので、ホトケさまに関わるお話をします。

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むかしむかし、あるところにとある王さまがおられましたんじゃ。

王さまは、多くの家臣を連れて、

出射猟。

出でて射猟す。

都城から出て、狩猟を行った。

狩猟は、食糧や衣料を確保するとともに、軍事的な訓練を兼ねる行事として、王さまの重要な仕事だったのです。

その帰り道、王さまは原野の中に仏塔を見つけ、馬を下りて、

繞塔、為沙門作礼。

塔を繞り、沙門のために礼を作せり。

仏塔を右回りに回った上、そこに住んでいる修行者たちを礼拝した。

「うははは、王さま、何をしておられるのですかな」

群臣共笑之。

群臣ともにこれを笑う。

家臣たちは、みんな王さまの行動を見て、笑った。

王さまは家臣たちに向かっておっしゃいました。

有金在釜、釜沸中以手取、可得不。

金の釜に在る有り、釜沸中に手を以て取るに、得べきやいなや。

「黄金の塊がカマの中にあると考えてみよ。カマにはお湯が入っていて、ぐらぐらに沸騰している。その時、黄金の塊を手で取り出すことはできるだろうか」

家臣たちは答えた、

不可得。

得べからず。

「取り出すことはできますまい」

以冷水投中、可得不。

冷水を以て中に投ずれば、得べきやいなや。

「冷たい水を沸騰しているカマの中に注ぎこめば、どうであろうか」

可得也。

得べきなり。

「取り出すことができましょう」

王さまは言われた。

我行王事、射猟、所作如湯沸。焼香、燃燈、繞塔、如持冷水投沸湯中。夫作王有善悪之行、何可但有悪無善乎。

我、王事を行い、射猟す、作すところ湯の沸くが如し。焼香し、燃燈し、塔を繞るは、冷水を持して沸湯中に投ずるが如きなり。それ、王を作すに善悪の行有り、何ぞただに悪有りて善無きのみならんや。

「わしは王さまとしての仕事をしなければならん。狩猟をして多くのドウブツを殺さねばならん。このような因果な仕事をしているのは、湯をぐつぐつと沸かしているようなものだ。そこで、お香を焚き、灯火を捧げ、仏塔をめぐって修行者に礼拝するのだ。これらの行為は、冷たい水をぐらぐらと沸いたお湯の中に注ぎこむのと同じことである。(因果からの脱出という黄金を得るためなのだ。)

王として生きる中では、善いことも悪いこともするものである。悪いことばかりで善いことは何もしない、ということになってはならんのだ。(お前たちも自分のなりわいの中で悪いことばかりしていてはいかんぞ)」

まったくですよね。

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呉・天竺三蔵康僧会訳「旧雑譬喩経」より。黄金は欲しいからなあ。もちろんこの黄金はまことの知恵、まことの悟りの比喩ですよ。本当にそれが手に入るなら、腕が爛れ落ちることがなんであろうか。

 

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