平成30年10月16日(火)  目次へ  前回に戻る

「わーい、なにかくれるでピヨる」「ピヨる」「ピヨる」と寄ってきたヒヨコたちであるが、カッパがくれるのはハナミズだと知ったときの彼らの復讐が恐ろしいところである。

久しぶりに更新。ただし、肝冷斎一族回り持ちなので、前回にわしが更新担当してからもう三週間か。「ほんとか?」と思うひとは三週間前と比べてみるといいと思いますよ。今日は久しぶりなのでオモシロそう?なお話をしましょう。

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清の半ば過ぎごろのこと、江蘇・常州の東の村に王得禄とその息子が住んでおった。

皆善鎗棒、尤精於弾。

みな鎗棒に善くして、尤も弾に精なり。

どちらもヤリや棒の使い手で、特に弾き玉についてすばらしい能力を持っておったのじゃ。

王得禄はせがれとともに、弾き玉を手にして各地の村や富家に依頼され、保鏢(ほひょう。金品の輸送を行う者)のシゴトに従事し、

群盗無敢近者、南北往来数十年、称弾王三云。

群盗もあえて近づく者無く、南北往来数十年、称して「弾の王三」といえり。

強盗団も彼らには近づこうとせず、かくして南へ北へ輸送すること数十年、ひとびとは「弾丸の王三」(「王三」は王一族の同じ世代の中の三番目の年長者、の意)と呼んで称賛していた。

せがれの方も親父に次ぐような技術を持っていたが、まだそこまで名前が知られていなかった。

そのせがれの方が、あるとき、親父とは独立して輸送を行うことになり、東昌の地に向かったのである。

東昌の群盗の頭・徐彪は当時「絶倫」(仲間の中でずば抜けている、という意味です。エッチ系の意味ではありませんので念のため)を謳われた腕自慢であった。例の「弾王三」のせがれと言っても親の名前は光っているが、どれほどのものでもあるまいと、

「やっちまうぜ!」

糾夥直前、弾早至。陥徐左目、衆負之去。

糾夥して直前するに、弾、早至す。徐の左目を陥して、衆これを負いて去れり。

仲間たちを率いて輸送隊の前に突進したところ、すぐに弾き玉が飛んできて、徐彪は左目を潰されてしまい、仲間たちに背負われてほうほうの体で逃げ去ったのであった。

・・・しばらく後のこと。

乞食至常、訪王三家、求爲傭。

乞食常に至り、王三家を訪いて、傭たるを求む。

コジキが常州にやってきて、王家を訪れ、雇ってくれと頼みこみにきた。

このコジキは左目がつぶれていたが、使ってみるとなかなかよく働くので、王家でも信頼していろんな用向きに使われるようになった。

このコジキこそ、徐彪で、

思欲報復、顧王父子雖家居如臨敵、故同居数月、無隙可乗。

報復せんと思うも、王父子を顧みるに、家居といえども臨敵の如く、故に同居して数月なるも、乗ずべきの隙無し。

片目を潰された復讐をしようと変装してやってきたのである。しかし、王父子の生活は、家に居るときもまるで敵に臨んでいるときのようで油断が無かったので、同家に潜り込んで数か月経っても、復讐を仕掛けるスキが見つからなかった。

ところが、そのスキ(かも知れないもの)が、やってきた。

一夕、王子娶婦。

一夕、王の子、婦を娶れり。

王のせがれがヨメをもらうことになったので、その初夜がやってきたのだ。

いい加減にほろ酔いで、せがれはヨメを連れて寝所に入って行った。

「ふふふ、さすがに今夜は(お疲れでしょうからね、ひっひっひ。)油断しているにちがいないぞ」

徐意此雪憤時也、俟夜分抽刀抜関入、掲帳。

徐、これ憤りを雪ぐの時なりと意(おも)い、夜分を俟ちて刀を抽き関を抜けて入りて、帳を掲ぐ。

徐彪は今夜こそ怨みを晴らす時だと思って、深夜まで待って、抜き身の刀を手に、夫婦の寝室への扉を通り、抜き足差し足でベッドに近づき・・・カーテンを開けた!

そのとたん、

一足飛起、刀落地。

一足飛起し、刀地に落つ。

片足を撥ね上げられ、刀は徐の手を離れて地面に落ちた。

「な、な、なんだ?」

何が起こったか一瞬わからなかったが、

新婦著紅襖躍出、駢二指削徐肩、痛如刀割、手不能挙。

新婦、紅襖を著て躍り出で、二指を駢(なら)べて徐の肩を削り、痛み刀にて割らる如く、手挙ぐるあたわざるなり。

花嫁が赤い上着を着て飛び出し、二本の指を揃えて徐の肩を叩いたのだ。それだけで、まるで刀で斬り落とされたように痛み、腕を挙げることができなくなっていた。

「チョップ」をくらわされたのです。

復騰足蹴其頷、仆地。

また足を騰げてその頷を蹴り、地に仆(たお)す。

さらに、足を上げて徐のアゴを蹴り上げたので、徐はそのままあおむけに地面に倒されてしまった。

新郎亦起、欲誅之。

新郎また起き、これを誅さんとす。

新郎の方も起きだしてきて

「怪しいやつだとは思っていたが、こんなメデタイ晩に仕掛けて来やがるとはな。どうやってぶっ殺してやろうか」

とニヤニヤ笑った。

徐は覚悟した。

そのとき花嫁が言った。

此等不直汚刃、不如縦之、使諭群盗、俾知我家仁勇兼至也。

此れら不直に刃を汚すは、これを縦(ゆる)して、群盗に諭さしめ、我が家に仁勇兼ねて至れるを知らしむるに如かず。

「こんなひね曲がったやつらの血で刀を汚してしまうよりは、こいつを逃してやって、戻って強盗団のやつらに触れ回らせ、我が一家には慈悲と強さどちらもある、と知らしめさせるほうがよくはない?」

新郎はニヤリと笑い、

「ふふ、おまえの好きにするさ。うちは家の中のことは女房に任せる習いだからな」

と答えた――――。

後、徐改行、爲粮艘篙師、逢人輒言之。

後、徐、改行して粮艘の篙師と為り、人に逢えばすなわちこれを言えり。

その後、徐彪は悪行を止めて穀物を運ぶ船の船頭になった。そうなってからも、会う人ごとにこの話をして、

「王家の若夫婦は大したもんだよ」

と言っていたそうである。

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「翼駉稗編」巻六より。ああよかった。徐彪が倒されたとき、いったいどんな恐ろしい方法でコロされるのかとワクワク、じゃないやドキドキしましたが、コロされなかったんですね。わしもシゴトの失敗その他でそろそろ蹴り上げられるかも知れんが、わしのような者の血で刃を汚すことはございませんぞ。

(三週間前の9月25日よりほかの日の方が似ている? それは一族ですから、いろいろ共通点はありますよ。)

 

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