平成30年5月27日(日)  目次へ  前回に戻る

あ、危ない、不安定になったナマケモノが木から落ちる!・・・と心配になってしまいます。この世のことでさえこんなに不安定なのだから、この世とあの世のつながりなんかもっと不安定なのでピヨ。

昨日はあたまの頭痛が痛くて漢字を読むのがツラかった。今日もツラいが今日は読んだぜ。

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清の時代のことでございます。呉江のふつうの人・董某は、蘇州の虎阜というところに出かけたとき、

於千人石畔遇故隣許某、ー糕一盤、高声叫売。

千人石の畔(ほとり)にて、故の隣の許某の、糕(こう)一盤をー(ささ)げて高声に叫び売るに遇えり。

「糕」(こう)は「蒸し餅」。

観光名所の千人石の近くで、以前隣に住んでいた許某が、蒸し餅を並べた大皿を手に捧げて、大声で「むしもち、むしもちはいかが」と売り歩いているのに出会った。

董が気づいて見つめていると、許の方でも気が付いたらしく、

即来寒暄、並贈二糕。

即ち来たりて寒暄(かんけん)し、並びに二糕を贈る。

「寒暄」は「寒いと暖かい」。「いい天気ですなあ」とか「暖かくなりましたなあ」といった天気や時候についての挨拶、さらにそのような挨拶をすること。

すぐやってきて、時候の挨拶をすると、売り物の蒸し餅を二切れくれた。

お礼を言おうとしたときに、ふと、

董憶其已死。

董、その已に死せるを憶えり。

董は、許がすでに死んでいるのを思い出した。

「????????」

董は許の顔をじっと見つめて、

烏得尚在、何時至此。

いずくんぞなお在るを得んや。何れの時にかここに至れる。

「どうして生きておられるのか? い、いったい何時ここに来たんですか?」

と問うた。

あるいはよく似た兄弟ででもあろうか。

許は事も無げに答えて言う、

在此七八年、已有家室。

ここに在りて七八年、すでに家室も有り。

「ここに来て七年か八年になりますなあ・・・、こちらで女房ももらいコドモでもできました」

と。

「ほ、本人なんですよね・・・」

あまりに驚いた顔をしていた(それはそうだ)からであろう、許は董を他のひとのいないところに引っ張って行って、

我陽寿未終、誤服薬死、一霊未散、売糕爲生。幸勿洩也。

我、陽寿いまだ終わらざるに、誤まりて服薬して死し、一霊いまだ散ぜず、糕を売りて生を為せり。幸いに洩らすことなかれ。

「わたしはこの世の寿命がまだ尽きていなかったんですが、(医師の過ちで)間違った薬を飲まされて死んでしまいました。(死にきれなかったので)たましいがばらばらにならず(生前の姿を保ったまま)、今は蒸し餅を売って生計を立てているんです。どうか、誰にも言わないでくださいね」

「は、はあ・・・」

それから

挙手而別。

手を挙げて別る。

手を振って別れた。

・・・と、誰にも言わない約束であったが、董は呉江に帰ると、すぐに許の遺族を探し当てて、このことを告げた。

遺族も驚いて、

赴蘇尋之。

蘇に赴きこれを尋ぬ。

蘇州まで行ってその人を探した。

千人石付近で聞いたところ、確かにそのひとは昨日まではモチを売りに来ていたということだったが、その住居については誰も知らず、

終不復見。

ついにまた見われず。

その日からはふっつりと現れなくなったのであった。

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「翼駉稗編」巻三より。わーい、不思議だなあ・・・と思うのは生きている人から見てのこと。わたしども現世を離れた方から見ると、現れるも消えるも自由自在です。金曜日まで姿を見せていた肝冷斎が何も言わずに姿を消したとしても、何の不思議も無いわけじゃ。

 

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