平成29年11月20日(月)  目次へ  前回に戻る

こんな感じで入ってしまうと、それと同化して行ったりするのである。肝冷斎がぶた肝冷斎になったように、うつけ少将はへびニンゲンに・・・。

月曜日になりました。亡命準備中。

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明の時代のことですが、蘇州にという木匠(指物師)がいたそうなんです。

このひと、

自小慕念仏法門、後亦竟持長斎。

小より仏法門を慕念し、後またついに長斎を持す。

小さいころから仏さまの教えに憧れ、その後、長期にわたって肉食や色欲を持たない生活を続けていた。

えらいひとです。

暮年自製一龕子、無病詣其女家告別。

暮年みずから一の龕子(がんし)を製し、病い無くしてその女家に詣(いた)りて告別す。

歳をとってから、自分で仏壇を納める箱を一つ造った上で、病気も特になかったのだが、娘が嫁入りしている先を訪ねて別れを告げた。

娘がいたということですから、まだ肉欲を捨てきっていないころがあったんですね。

ある日、

至期。

期、至れり。

「いよいよその時が来ましたのじゃ」

と言いますと、

坐龕中、雇人舁之而出。

龕中に坐し、雇人これを舁きて出づ。

箱の中に入って座り、人を雇って箱ごと担いでもらって家を出た。

こうして墓地まで来ると、

索火、不得。

火を索むるも、得ず。

誰かから火をもらおうとしたが、火を持っているひとは見当たらなかった。

「そうですか。それでは仕方ありませんなあ」

と言いまして、墓地にいた人から、

乞一枝綫香、吹気三口其上。

一枝の綫香を乞いて、その上に三口、気を吹く。

(火のついていない)線香を一本もらった。そして、その線香に向かって、三回息を吹きかけた。

すると、どういう仕掛けになっていたものやら、

火光繞龕、須臾成燼。

火光龕を繞り、須臾にして燼と成す。

線香から火が飛び出して、その火が箱の周りをぐるぐると飛び交った―――かと思うと、もう李は箱ごと燃え尽きて、灰になってしまっていた。

わーい、すごいなー。

・・・・・・同じ時期に蘇州の南町にという木匠が棲んでいて、このひとも仏法への思いが深かったのであるが、

亦製龕子、無病詣諸道侶作別。

また龕子を製し、病い無くして諸道侶に詣りて別れを作す。

やはり箱を作って、それから特に病気もしていないのに、念仏仲間たちのところを回って別れを告げて歩いた。

このひとは娘もいなかったみたいですから、若いころから肉欲を棄てておられたのでしょう。

ひとびとが心配して家までついてくると、

「そんなに心配なさる必要はございませんのになあ。簡単なことなのですから」

と言いながら、

還坐龕中、倏然而化。

還りて龕中に坐すに、倏然(しゅくぜん)として化せり。

帰宅して、何気無さそうに箱の中に座ると―――あっという間に死んでいた。

これは家の中でそのまま使うために自分で燃える仕掛けにはしてなかったようだが、座るとすぐ死ぬようにしてあったのであろう。

隣里驚嘆、為之荼毘。

隣里驚嘆し、これを荼毘に為す。

となり近所のひとびとはびっくりして大いにほめたたえ、火葬にしてやった。

のだそうでございます。

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明・銭希言「獪園」第五より。おいらもこんな技術があればすぐに箱に入ってしまうのですが、それほどの技術は無いんです。

 

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