平成29年7月22日(土)  目次へ  前回に戻る

ぶたの食欲は強い。だが、ぶたの腹はなんでも消化するので、ぶたが世間にかけるご迷惑は食欲に比して小さくなっているはずである。

明日はもう日曜日。明後日は・・・。肝冷斎は失踪して、どこに消えたか手がかりもない。

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明の時代のことでございますが、劉尚賢というひとと張明時というひと、

比党為友、寔以利合。

比党して友たるも、寔(まこと)に利を以て合す。

たいへん仲のよい友だちだったが、本当のところは利害関係で付き合っていたのである。

しかし、

酔則拍肩矢日、願同生死。常謂、我等無銭把撮、不見交誼。異日倘富貴、毋相忘。

酔えば肩を拍(う)ちて日に矢(ちか)うに、願わくば生死を同じうせん、と。常に謂う、「我ら銭の把撮する無く、交誼を見ず。異日もし富貴とならば、相忘るるなかれ」と。

酔えば互いに肩をたたきあって、毎日、「生きるも死ぬも一緒に行こうではないか、と誓約しあっていた。

いつも口癖のように「われわれは今はひつまみのカネもないから、友情を極めることができない。もしも将来、どちらかが富貴になったとき、今のキモチを忘れないようにしよう」と言っていた。

この二人、ある日の晩、近くの村の寄り合いで少し酔って、自分たちの村に帰る途中、

見火燐燐、識其地掘之、果是銀根矗起如笋。

火の燐燐たるを見、その地を識りてこれを掘るに、果たしてこれ銀根の矗起(ちくき)して笋の如きなり。

地面からきらきらと光りが出ているのを見つけ、その場所を確認して掘ってみたところ、なんと、銀鉱石がまるでタケノコのように縦に並んで埋まっていたのであった。

「おお」

二人大喜、謂、宜具牲醴祭祷、而後鑿取。

二人大いに喜び、謂うに、「よろしく牲・醴を具えて祭祷し、しかるのちに鑿取せん」と。

二人は大いに喜んで、言い合うには、「捧げものの肉とあまざけを用意して地の精霊にお礼を申し上げようではないか。その上で、削り取ろう」と。

(ひっひっひ)

尚賢已毒盞中、令明時服之。

尚賢はすでに盞中に毒して、明時にこれを服せしむ。

劉尚賢は携帯用のさかずきに持っていた酒を注ぎ、その中に毒を入れて、「さあ、明時どの、飲んでくれ」と飲ませたのであった。

(くっくっく)

「いやすまぬな、尚賢よ。おまえもやってくれ」

と張明時も返杯する。

(ひっひっひ、はやく毒が回らないかな)

(くっくっく、尚賢め、そろそろ酔っ払ってきたかな・・・)

明時亦置斧腰際、乗酔撃尚賢死、而不知毒発身亦死。

明時また斧を腰際に置き、酔いに乗じて尚賢を撃ちて死なしめ、毒の発するを知らずして身また死せり。

張明時の方は腰のあたりに斧を括りつけていたのだが、尚賢が酔いはじめると、その隙に乗じて、斧を手にして尚賢をぶん殴って殺してしまった。ところがその時はまだ気づいていなかった毒がやがてからだに回りだし、明時も死んでしまったのであった。

ああ。

蓋二人豕腹、倶欲独有此物也。

けだし、二人豕腹にして、ともにこの物を独有せんと欲せるなり。

この二人はどちらもブタのように強欲で、掘り出した物を独占しようとしたのである。

その後、両家でもそれぞれ何かが在ったのではないかと二人の死んだあたり掘り返したそうだが、とうとう何も出なかったそうである。

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明・劉忭他「続耳譚」巻一より。

わーい、ブタについて触れていただきました。うれしいなあ。おいらたちブタの腹はなんでも食べますからね。ブタの腹は「強欲」なんではなくて「有能」なだけなんでぶけどね。なお、岡本全勝さんのHPで肝冷斎の絵について触れてもらいましたが、肝冷斎は失踪してしまったから、そのことも知らないんだろうなあ。

 

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