平成29年7月18日(火)  目次へ  前回に戻る

精霊たちはたいていのことは知っているのである。フキの葉の下にひそむコロポックルは、真夏にどこが涼しいか、知っているのだ。

平日はじまる。今日でもうダメだ。やはり気力が弱すぎるのである。金曜日までどこかで外勤してさぼっていたいものである。

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清の時代、林培というひとが広州・新化県の知事をしていたときのことである。

有饒貴者、与妻男四人暮帰、盗殺之、駢屍於野。

饒貴なる者、妻と男四人と暮れに帰るに、盗これを殺し、野に駢屍せらる有り。

饒貴(じょうき)なるひとが、妻と家の男たち四人とともに野良仕事から夕方帰ったところで、一家すべて強盗に殺され、野原に死体を並べられる、という事件が起こった。

犯人がわからないので、林知事は

爲文告山川城隍之神畢。

文を為(つく)りて山川・城隍の神に告げ畢(おわ)んぬ。

犯人を教えてくれるよう告示文を作って、土地の山・川や町・村の神々(のお堂)に連絡したのであった。

そうしておいて、ある日、馬に乗って外勤中に、

有蝶前飛、飛良久、心識之。

蝶、前に飛ぶ有りて、飛ぶことやや久しく、心にこれを識る。

蝶が何匹か、目の前に飛び交うのに気付いた。かなりの時間飛んでいたので、不思議な気がしていた。

やがて、蝶たちは前になり後ろになりしながら一方に飛び始めたので、林もそのあとを追ってみた。

尋単騎歴里社講約、適見蝶飛集一稚子衣背。

単騎にて里社の講約せるを尋ぬるに、たまたま蝶の飛びて一稚子の衣の背に集まるを見たり。

単騎そのあとを追うと、どこかの村社の祭りらしいのにたどりついたが、そこで蝶たちは、一人の子どもの服の背中に集まって止まったのである。

何気なく、子どもを見て、林知事は「あ」と声を洩らした。

その子どもの着ている服には、殺された饒の家の紋が入っていたのだ。

尾得其父王忠瑚、捕至鞠之、立伏罪。

尾してその父・王忠瑚を得、捕らえ至りてこれを鞠するに、立ちどころに罪に伏せり。

その子どもを尾行して、その父の王忠瑚の身柄を確保し、連行して取り調べたところ、すぐに犯行を白状した。

けだし、子どもの着ていたのは、饒の家から盗んで来たものであった。

当時、地元の文人たちが「胡蝶記」というのを書いて、林知事の真心が土地の精霊たちに通じたのだ、と大いに喧伝した事件である。

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清・屈大均「広東新語」巻二十四より。

おいらも林知事みたいに外勤していれば、何かいいことするかも・・・。

 

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