平成29年6月26日(月)  目次へ  前回に戻る

われらはみんな人形なのだ。操られているだけの存在なのだ。誰に操られているのかがまだよくわからんが。

もう会社は辞めているのですが、ちょっと出勤してみました。

すると呼び止められた。

「これ、肝冷斎よ」

「へ、へえ」

「どうせシゴト頼んでもできないんだから、なにかオモシロい話でもしたまえ」

「へ、へえ」

ということで、お話をさせていただきます。

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むかしむかしのことでございますが、ある人が東のはてに行きまして、そこから船に乗って、とある島に停泊した。

すると、

聞水下有人哭声。

水下に人の哭する声有るを聞く。

水の中から、にんげんが泣き悲しんでいるような声が聞こえたのであった。

そこで耳をすましていると、その声はやがて泣くのを止めて、話し始めました。

昨日龍王有令、凡水族有尾者斬。吾鼉也。懼誅而哭。

昨日、龍王令有りて、「およそ水族の尾有る者は斬る」と。吾は鼉(だ)なり。誅を懼れて哭せり。

「昨日、龍王さまからご命令が出た。「水中に棲むドウブツで、しっぽのある者は斬罪に処する」と。わしはワニじゃ。処刑されるのがツラくて、泣いているのじゃ」

龍王さまがそんな恐ろしいご命令を下すとは。ちなみに本日、龍王戦トーナメントで増田四段を降して、藤井四段29連勝!だそうです。

閑話休題。

今度は、別の泣き声が聞こえてきました。

最初の声が、言いました。

蝦蟇、汝無尾不須哭。

蝦蟇よ、なんじ尾無ければ哭するをもちいず。

「ガマガエルよ、なぜ泣くのか。おまえにはしっぽは無いではないか」

するとガマガエルは答えた。

但恐他理会科斗前事。

ただ、他(かれ)の科斗(かと)前の事を理会せるを恐るるなり。

「科斗」は「おたまじゃくし」。

「やつらが、わしが以前オタマジャクシだったことを覚えていたらどうしようかと思って、悲しんでいるのでござる」

と。

わははは。ガマがオタマジャクシだったときのことなど、覚えている必要はありませんのにね。

しかし、笑われるべきはガマではないのだ、

嘲人捜尋已往之事。

人の、已往の事を捜尋するを嘲るなり。

いつまでも他人の過去を穿り回している方こそ、嘲笑されるべきことでございましょう。

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わははは。宋・張致和「笑苑千金」巻四より。

誰にもいろんな過去があるものでございます。それにしてもこのガマはオタマジャクシだったことを覚えているので立派です。自分がオタマジャクシであった、ということを忘れてしまっているガマ野郎の、なんと多いことか。われらニンゲンにも、かつてしっぽがあったではないか。

 

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