平成29年5月31日(水)  目次へ  前回に戻る

収入源が似通っているため、緊張関係にあるぶた神官とぶた僧侶。一方に収入を奪われると他方が窮迫するゼロサム状態で、ぶた学校時代からのライバルである。

月末となってまいりました。来月はどうなるのか。来月いっぱいぐらいは今の収入が保たれるであろうか。

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元の時代、官天梃、字・大用というひとがおりました。河南・大名のひとで、学問詩文にすぐれていた・・・が、元代になって科挙は中止され、儒者に立身の道が無くなり、落魄して学校の教授、さらに家庭教師、最後は雑劇のシナリオ書きになって糊口をしのいでいた。ほとんどの作品は散佚しましたが、今に「范張鷄黍」というのだけが遺って、名作と称される。

その官天梃が窮迫の中で死んだ。

その粗末な葬儀に、おやじが官天梃先生の親友だった、と名乗るやつがぼろぼろの服でやってきて参列し、お斎に与かって、

「香奠替わりに、これを・・・」

と一篇の弔詞を読み上げた。というか、節をつけて歌い始めた。

豁然胸次掃塵埃、 豁然たる胸次、塵埃を掃い、

久矣声名播省台。 久しきかな、声名は省台に播せらる。

「省台」というのは大統領府に該たる「中書省」の略称です。

(官先生は)胸の中のさっぱりしたひとで、ごみやほこりは掃き浄められて無くなっており、

ずっと昔から中書省のおえらがたたちにもその名声は知られておられたのだ。

と思う。

しかしながらなぜその官さんが貧乏したかというに、

先生志在乾坤外、 先生の志は乾坤の外に在り、

敢嫌他天地窄。  あえて嫌う、他(か)の天地の窄(せま)きを。

 官先生は天の向こう、地のかなたにしか興味が無くて、

 地球の上の狭さに嫌気がさしていたからなのだ。

辞章厭倒元白、  辞章は元・白を厭倒し、

凭心地、据手策、 心地に凭(よ)るも手策を据(す)うるも、

是無比英才。   これ無比の英才なり。

 文学では唐の元稹や白楽天を押しつぶすほど、

 精神的にも能力的にも

 こんなひとは他にいない英才であった。

「ということで・・・お邪魔いたしました」

「金品のひとつも置いていかないのか」

と遺族はかなり長い間文句を垂れていたという。

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元・鍾嗣成「弔官大用・双調水仙子」(官大用を弔う。双調「水仙子」の節で)。鍾嗣成は「録鬼簿」(あの世に行たひとの名簿)という、自分の知っていた元曲の作者たちの名前と作品、簡単な略歴などの記録を作っていて、その官大用の項にこの「曲」が記されていたのである。

おいらももうすぐ窮迫するので、「九儒、十丐」(社会身分の上から九番目が儒者、一番下がコジキ)といわれた元の時代の知識人の生きかたは勉強になるなあ。

 

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