平成27年1月12日(月)  目次へ  前回に戻る

ムシはともだち

おいらは温暖斎。まだ南の島に潜伏中。

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晋の安帝の義熙年間(405〜418)のことだそうですが、山東・琅邪費県の王家で、食べ物が失くなることが相次いだ。

「誰か盗む者がおるのじゃろう」

と主人は

毎以扃鑰為意、而零落不已。

つねに扃鑰(けいやく)を以て意と為すも、零落して已まず。

毎晩、カギとカンヌキをきちんとかけるように注意したが、それでもやはり続けざまに物が失くなるのであった。

いろいろ調べてみたところ、

見宅後籬一孔穿、可容人臂、滑沢。

宅後の籬に一孔の穿たれ、人臂を容るるべくして滑沢なるを見る。

屋敷の裏の垣根に、人間の腕がようやく通るほどの穴があるのが見つかった。中はぬるぬるしているのであった。

「人が出入りするには狭すぎる。イヌかネコか。それにしてもこのぬめりはなんじゃろう?」

試作縄罝、施於穴口。

試みに縄罝(じょうしょ)を作り、穴口に施す。

ためしに縄を編んだ網を作って、これを穴の出口のところに仕掛けておいた。

さてその夜―――

夜中聞有擺撲声。

夜中、擺撲(はいぼく)の声有るを聞く。

「擺」(ハイ)は「開く」、「撲」(ボク)は「打つ」ですが、ここは「仕掛けが開いて何かが入った音がした」ということなのでしょう。

深夜、仕掛けた網が開いて何かが入った音がした。

「何か入ったぞ!」

主人と下人ども、わらわらと

往掩。

往きて掩えり。

仕掛けのところに行って、網の入口を押さえて出られないようにした。

そして灯りを持って来させて、捕らえたモノをよくよく見るに、

「なんだこれは!?」

得大髪、長三尺許。

大いなる髪の長さ三尺ばかりなるを得たるなり。

長さ一メートル弱の髪の毛の、大きなかたまりであったのだ。

しばらく呆然として見ているうちに、髪はうねうねと動き出した。

「あわわ・・・」

髪だと思っていたものは、実は

変為蟺。

変じて蟺(セン)と為る。

正体はミミズであったのだ。

何百、何千という、それも通常より大きなミミズが、灯りの熱のせいで激しく蠢きだしたのだ!

「うわー!」

下人どもが一瞬網を取り落した隙に、ミミズどもは網の目からずるずると這いだし、そして、闇の中に消えて行った・・・。

なお、

従此無慮。

これより慮無し。

これ以降、なにも心配な事は起こらなかった。

そうですので、正体がばれたあとはナニゴトも無かったようです。

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唐・闕名氏「廣古今五行記」より(「太平廣記」巻473所収)。

これは山東省でのことですが、おいらの住んでいる南方には、もっとヘンな生物がいるんだよ。奄美には世界三奇虫の一とされるサソリモドキも棲息しています。一度見に来ないかい?

(注)ほかの二奇虫はヒヨケムシウデムシ。みんなすごいやつらだから、一度画像検索してみて。

 

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