平成26年11月28日(金)  目次へ  前回に戻る

「隠された力があったりするでWAN!」

週末です。しかし週末が来るとすぐ月曜日が来るので気をつけないと。

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明の末のころ、

冠道冠、躡赤寫、披狗皮、乞食成都市。

道冠を冠し、赤寫を躡(ふ)み、狗皮を披(き)て、成都の市に乞食す。

道士冠をかぶり、赤いくつを履き、イヌの皮をかぶって、成都の町の市でコジキをしているひとがいた。

ひとびとは彼のことを

狗皮道士(くひどうし)=「犬の皮かぶりの道士さま」

と呼んでいたが、このひと、

毎至人家乞食、輙作犬吠声。酷相類、家犬聞之、以為真犬也、突出吠之。

人家に至りて乞食するごとに、すなわち犬の吠声を作す。酷(きわ)めて相類し、家犬これを聞きて以て真犬なりと為して、突出してこれに吠ゆ。

人の家に来てコジキをするときは、いつもイヌのように吠えるのであった。

その声、非常にホンモノそっくりであったので、その家の飼い犬はこれを聞いてホンモノの犬が来たのだと認識し、飛び出して来て道士に吠えかかるのである。

すると、

道士輙与対吠不休。隣犬聞之、亦以為真犬也、輙群集繞吠之。

道士すなわちともに対吠して休(や)まず。隣犬これを聞き、また以て真犬なりと為して、すなわち群集してこれを繞りて吠ゆ。

道士はこのイヌ相手に対決して吠えあい、止めようとしない。そのうち隣の家の犬もこれを聞いて、ホンモノの犬どうしが吠えあっているのだと思って、どんどん集まってきて道士を取り囲んで吠えるのであった。

大人気ないでちゅねー。

犬どもの吠え声は、どんどんエスカレートしてきます。ものすごくうるさくなったところで、

道士怒、忽作虎嘯声。群犬皆辟易。

道士怒り、忽ち虎の嘯く声を作す。群犬みな辟易したり。

道士はアタマに来て、突然こんどはトラの声でながながと吠える。すると群れ集まったイヌどもは、ホンモノのトラだと思って逃げ散ってしまうのであった。

そこでおもむろに手を出し、家人からいくばくかの銭を乞うのである。

その住居は町はずれの破れたお堂であったが、道士は毎晩

至深夜、輙作一犬吠形声。

深夜に至るや、すなわち一犬の吠形の声を作す。

夜更けてから、犬の声色でひとたび吠えるのであった。

この声が夜空に聞こえると、

少頃、作衆犬吠声、儼然百十犬相吠也。

少頃にして、衆犬の吠声を作し、儼然として百十犬相吠ゆ。

しばらくすると何匹かの犬がこれに応じるかのように吠える。それに対して、何百何十という犬が応えて吠えはじめる。

久之、通国之犬皆吠、而達乎四境矣。

これを久しくして通国の犬みな吠えて、四境に達す。

やがてどんどん広がって、成都中の犬がみな吠えはじめ、さらに行政境界まで広がるのが常であった。

「ああうるさい。メイワクなひとだなあ」

・・・と思われていたのですが、ところがある年・・・・(以下次回)

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陳鼎「狗皮道士伝」清・張潮「虞初新志」巻十所収)より。

メイワクな道士(しかも犬のコスプレでキモチ悪い)だと思われていたのですが、実はたいへんなひとであったことが次回明らかになります。この世の中、いったいどこにどんな驚くような事実が隠れているかわからないのでございます。金曜日の夜は実は月曜日の朝のわずか二日半前に過ぎないのだ。気をつけなければならない。気をつけなければならない。

 

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