平成26年9月25日(木)  目次へ  前回に戻る

 

竹の実はおいしいなあ。

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戦国・宋の恵施は魏(梁)の国に行きまして、その国の王さまに気に入られて、大臣になった。

そこへ、友人の荘周が宋から来訪するとの知らせがあったので、大いに楽しみにしていたが、

或謂恵子曰、荘子来、欲代子相。

あるひと恵子に謂いて曰く、「荘子来たりて、子に代わりて相たらんと欲す」と。

あるひとが恵施にそっと耳打ちしていうに、

「御存知ですか。宋から荘周が来て、あなたに代わって大臣になろうとしているようですぞ」

と。

そういわれて、恵施は

「なぜ荘周はわたしのところに顔を出さないのか。魏の国に入ってから、何をやっているのだ!」

と不安になって、

捜於国中三日三夜。

国中を捜すこと、三日三夜なり。

あちこちに人を遣わして、三日三晩にわたって国中で荘周の行方を探させた。

そこへ、当の荘周がやってまいりました。

「荘周よ、この国で何をしていたのか?」

「はあ? わたしはただ宋の国からおまえさんを訪ねてやってきただけだ。少々物見遊山して寄り道してきたが・・・」

「ほんとうか? おまえはわたしにとって代わるために来たのではないのか?」

と問い詰めると、荘周、

「ほえほえ〜」

と驚いて、曰く―――

南方有鳥、其名為鵷雛。子知之乎。

南方に鳥有り、その名は鵷雛(えんすう)。子、これを知れるか。

南の国に「鵷雛」(えんすう)という鳥が棲息しているのじゃが・・・おまえさん、知っとるか?」

「いや・・・」

「それなら教えてやらねばのう。

夫鵷雛、発於南海而飛於北海。非梧桐不止、非練実不食、非醴泉不飲。

それ鵷雛は南海に発して北海に飛ぶ。梧桐にあらざれば止まらず、練実にあらざれば食らわず、醴泉にあらざれば飲まざるなり。

かの鵷雛という鳥は、南の海のほとりから羽ばたいて、北の海のほとりまで渡り行こうとした。その間も、この鳥はアオギリの枝でなければ止まろうとしないし、竹の実しか食べようとしないし、ほんのりとあまざけのような味のする泉の水しか飲もうとはしなかった。

そういう高尚な鳥であった。

於是鴟得腐鼠。鵷雛過之、仰而視之、曰嚇。

ここにおいて、鴟(し)の腐鼠を得。鵷雛これを過ぐるに、仰いでこれを視て、曰く「赫(カク)」と。

ところで、ここにトビがいて、たいへんうまそうな腐敗しかけのネズミの死骸を見つけ、これを食べようとしていた。

そのとき、その上空をちょうど鵷雛が通り過ぎようとしたので、トビは鵷雛を見上げると、(その獲物を横取りされるのではないかと心配して)上空に向かって「くわッ!」と威嚇した。

という―――。

今、子欲以子之梁国而嚇我邪。

今、子は子の梁国を以て、我を嚇せんと欲するか。

おまえさんのやっていることは、おまえさんの魏での地位を横取りされるのではないかと心配して、わしを威嚇している―――ということなのかな?」

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「荘子」秋水篇より。「鴟、腐鼠を得たり」というお話でございます。腐りかけのモノはおいしいです。

でも、そう言われても恵施の方は、

「アオギリの枝に棲み、竹の実を食らい、あまざけの味のする泉の水を飲んでいるのは、わしではないのか? ネズミの死骸で満足している荘周とは違うぞ」

と思っていたと思います。そして、あなたもそう思っているのでは?

 

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