平成26年8月8日(金)  目次へ  前回に戻る

しごとはほとんど崩壊してきましたネ。

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現実を逃避してみる。

三国・呉の孫権のころ、民間の道士に永嘉の陽童なるひとがあった。(「童」という名前であって、別に「童子」だったわけではないのだと思いますが、ここでは仮に童子であったとして訳します。)

この陽童子、あるとき

独乗船往建寧、泊在渚次。

独り船に乗りて建寧に往くに、渚次に泊す。

ひとりで乗合の船で建寧の町に行く途中。船は渚次という港で碇泊した。

「コドモなのに一人旅かい。エライねー」

と同乗の旅の女楽士に褒められ、アタマを撫で撫でされて

「うっしっしー」

とニヤニヤしていた陽童子でしたが、好事魔多し。

夜になって船中みなぶーすかと眠っている頃おい、

忽有一鬼来。

たちまち一鬼来たる。

突然、一匹の精霊が船にやってきた。

精霊は悪さをしようとひとわたり見回して、

「このガキは一人旅のようだな」

欲撃童。

童を撃たんと欲す。

陽童子をぶん殴ろうとした。

「ひっひっひ」

近づくと、陽童子、予測でもしていたかのように、つい、と起き上がって、

誰敢近陽童者。

誰ぞ、あえて陽童に近づく者は。

「いったい誰だ? この陽童子にあえて近づこうという者は」

と言うた。

「なんですと!」

鬼即稽顙。

鬼、即ち稽顙(けいそう)す。

精霊は、たちまち土下座した。

実不知是陽使者。

実に知らず、これ陽使者なり、とは。

「陽使者さまとはまったく存じ上げませんでしたあ!」

「使者」はただの「お使いの者」ではなく、この場合は皇帝や天帝などの代理として差遣される高位者のことです。

陽童子、頷き、曰く

「知らなかったのではしかたありまちぇんね。では、おいらの言うことを聴きなちゃい」

「ははー!」

童便勅使乗船。船飛迅駛、有過猛帆。

童、すなわち勅して乗船せしむ。船飛びて迅駛し、猛帆を過ぎるもの有り。

そこで童子は精霊に命じて、船に乗らせ、「速やかに建寧の町に向かえ」と命じた。すると船は飛ぶように速度をあげ、帆をいっぱいに張ったほかの船をも追い越して進んだ。

朝方には建寧の町が見えてきました。

「あっという間に着きまちたよー」

これを見て、同乗の女楽士、

「コドモなのに精霊を使うなんて、エライねー」

「うっしっしー」

陽童子、アタマを撫で撫でされて、ニヤニヤしながら、

至県乃遣之。

県に至りてすなわちこれを遣る。

目的地についたところで、ようやく精霊を解放してやったのであった。

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コドモなのにえらいなー。南朝宋・劉敬叔「異苑」巻九より。

 

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