平成26年7月10日(木)  目次へ  前回に戻る

「ブフッとさわやかぶたコーラ」

今夜は台風がそこらへんにいるらしく、ムシムシします。明日は猛暑になるらしいです。ああ不快だなあ。何かスカッとすることはないものか。

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明の弘治帝の時代(1487〜1505)、陝西・藍州からペキンに米穀類を輸送してきたp武人というひとがおりました。

当時、皇族の西陵侯さまという方はたいへんよくお酒を飲まれるというので高名でいらせられたのでございますが、あるひとが西陵侯に

「いやー、殿はよくお飲みになられますなあ。

武人可以為敵。

武人、以て敵と為すべし。

p武人ぐらいしか、殿にかなう相手はおりますまい」

と言ったものだから、

「ほう・・・、そういうおとこがいるのか」

と、侯はp武人にたいへんご興味をお持ちになり、

遂召与飲。

遂に召してともに飲む。

とうとうp武人を探させてお召し出しになり、飲み比べすることにした。

時に冬のはじめ、新たに醸したお酒がちょうど出来た時分、この新酒を呑み比べようとて、

共有二缸。

共に二缸有り。

二人の間には巨大な甕が二つ置かれた。

それぞれひとの背丈ほどもある大甕で、一甕だけで百人の宴会に使ってもまだ余りあるほどの容量である。

「では、始めるぞ」

「あい。うけたまわりまする」

二人はにこやかに笑みながら、碗に一杯づつ交代に飲んで行ったのであった。

対飲一缸尽。

対飲して一缸尽く。

飲みあっているうちにとうとう巨大な甕を一つ、空けてしまった。

そのときにはもう

西陵不復知人事。

西陵、人事をまた知らず。

西陵侯さまは酔っぱらわれて、前後不覚となっておられた。

しかし、

武人暢懐自酌、至暁復罄一缸。

武人、暢懐して自ら酌み、暁に至りてまた一缸を罄(つく)す。

「罄」(ケイ)は「虚しい」「からっぽにする」の意。

武人の方はこころゆくままに一人でぐいぐい飲み続け、夜明けのころにはもう一つの巨大甕も飲みつくしてしまった。

「なんと!」

「西陵侯が飲み比べにお負けになられた!」

というのは当時ずいぶん喧伝されたことで、侯の肩を持つひとたちの中には

武人有幻術。

武人に幻術有り。

「あのp武人というやつは幻術を使って飲んでいたように見せかけていただけだ」

と騒ぎ立てた者もあった、ということである。

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明・郎瑛「七修類稿」巻四十四より。

田舎から出てきた名も無い商人が、貴族に大勝利! スカッとさわやかルサンチマン! 

読者の中には

「勇気をもらった。よし、おれも明日こそ上司や取引先に普段言えなかったことを「ばーん」と突きつけて、ついでに○表も出してきてやるぜ」

・・・というひとも出るかも。期待しておりますぞ。

 

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