平成25年12月3日(火)  目次へ  前回に戻る

 

防空識別圏だと!

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・・・の話はよそにいたしまして、硯の話でございます。

我が国の古来よりの有名硯といたしましては、

1.亜相時朝之硯

中臣鎌子の連、住吉大明神のお示しにより入手したという硯である。

2.松蔭硯

知恩院に保管されているよし。

宋の趙州王から平清盛におくられし硯なり。紫石、竪(たて)七寸三分、横四寸八分、厚さ一寸三分。「元気精英」と篆字にて彫り込まれている。

3.壬生忠峰硯

古今歌人・壬生忠岑の使用した硯といい、京都壬生寺に保管されているよし。紫石、竪四寸一分、横三寸三分あり。

4.紫式部硯

江州(近江国)石山寺に保管されているよし。源氏物語を書いたときの硯という。

5.鳳足硯

後水尾帝の御硯。水戸光圀公の銘あり。長さ一尺ばかり、濶(ひろ)さ七寸、厚さ一寸三分有りとかや。

6.残月硯

石川丈山翁の硯。城州(山城国)一条寺村詩仙堂に保管されているよし。

蓋は唐渡り、太閤秀吉政所の鏡室の蓋という。

7.茶人の三硯

ふぼく(千利休所持という)  かわら   かまけん

8.木硯

懐にして携帯するに、軽くて便利である。堅い木で作る。

普通のみなさん、

「あなたはなぜそんなに硯に興味があるのか? マニア?」

と訊ねてはいけませんぞ。「小窗清記」に云う、

文士之有硯、猶美人之有鏡。一生最親。

文士の硯有るは、なお美人の鏡有るがごときなり。一生最も親しむ。

わたくしども文人と硯の関係は、美しい女人と鏡の関係と同じにござる。人生における最も親しいモノの一つなのだ。

硯に興味があるのは文化人のつねである。そうでないのなら、みなさんは文化人ではないのであろう。

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大阪・大枝流芳「雅遊漫録」巻一より。大枝流芳(大江とも名乗る)は江戸中期の上方の文人で、京都・大阪に住し、香道の師匠や茶舖の主人をたつきとして風雅の道を究めたといい、(雨月物語の)上田秋成と近いひとであったらしいが、あまり詳しい伝記は知られておりません。「雅遊漫録」は風雅に暮らすために必要なモノについて彼がウンチクを傾けた書で、宝暦五年(1755)に上梓されたという。

ちなみにわたし(煩礼斎)は硯には興味ありませんので念のため。

 

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