平成25年6月13日(木)  目次へ  前回に戻る

 

唐の時代。

江西・饒州の刺史(知事)の崔彦章が城東の楼閣でお客の送別会を開いていたところ、

忽有一小車、其色如金、高尺余、巡席而行。

たちまち一小車の、その色金の如く、高さ尺余なる有り、席を巡り行く。

突然、金色に塗られ、一尺あまりの大きさの小さな車が現われ、宴席の中をめぐりはじめた。

みなが呆気にとられて見ている前で、それは誰かが押したり牽いたりしているわけでもなく、ひとりでに動いているのだ。

そして、

若有求覓。

求覓することあるがごとし。

誰かを探しているかのようであった。

やがて車は主人の彦章の席の前まで来ると、

遂止不行。

遂に止まり行かず。

とうとう止まって、動かなくなった。

と見るや―――

彦章即絶倒。

彦章、即ち絶倒す。

彦章がその場に倒れたのだ。

みな大騒ぎして手当したが、その間に車の方はどこに行ったものか見えなくなってしまった。

彦章は輿に乗せて運ばれたが、城内の官舎に戻ったときにはすでにこときれていた。

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五代〜宋・徐鉉「稽神録」巻四より。さあ、わしの前にこそこの小車が止まるのではないか、と予想される明日の宴席。いつもにもまして不安。

 

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