平成25年5月20日(月)  目次へ  前回に戻る

 

もっと思いのままに生きようぜ、ていう話。

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唐の時代のこと。

洛陽の令(長官)に張昌儀というひとがおりました。一族で権勢を握っており、およそ官庁に関わることでできないことは何もない、というほどであった。

ある時、

有一人姓薛齎金五十両、遮而奉之。

一人、姓薛なるもの有りて、金五十両を齎(もたら)し、遮りてこれを奉ず。

薛という姓のひとが一人やってきて、張昌儀を引きとめ、黄金五十両を持ち込み、献上してくれた。

そのとき口頭で何かを言ったが、昌儀はめんどうくさいので「うんうん」と頷くばかりであった。

要するに賄賂ということであろう。

儀、領金受其状。

儀、金を領しその状を受く。

昌儀はお金をありがたくいただき、相手が手渡す文書を受け取った。

この文書の中に何をしてほしいか、が書いてあるらしい。昌儀はさも理解した、というように頷きながら、金と書状を懐に入れた。

そのまま、

至朝堂、付天官侍郎張錫。

朝堂に至り、天官侍郎の張錫に付す。

朝廷に出かけ、天官侍郎(官房副長官みたいな職)であった一派の張錫にその書状を渡した。

「よろしく頼む」

張錫はニコニコしながら

「唯、唯」

と肯った。

―――数日後。

張昌儀が朝廷に出勤すると張錫が寄ってきて、ニコニコしながら声をかけてきた。

「昌儀さん、実は・・・

失状。

状を失えり。

あずかった書状を無くしてしまったんですよ。

以問儀。

以て儀に問う。

そこであなたにお訊ねしようと思ったのですが・・・。

内容を御記憶ではありませんか?」

ニコニコして、悪びれるところなどかけらもないようである。

儀曰我亦不記得。但姓薛者即与。

儀曰く、我また記得せず。ただ、姓の薛なる者、すなわち与う、と。

昌儀は答えた。

「わしもよく覚えておらんのだ。ただ、薛という姓の者からもらった、ということだけ覚えておる」

「う〜ん、わかりました」

張錫はほほ笑んだまま引き下がり、すぐに部下に命じて洛陽城内に住む薛という姓の者をすべて調べさせた。すると、

姓薛者六十余人。

姓の薛なる者六十余人なり。

薛という姓の者が六十何人か見つかった。

「六十人余り? オーケー!」

張錫は天官(官房)の印を使って、

竝令与官。

並びに令して官を与う。

その全員に辞令を渡し、官職を与えた。

そして、任命式の際に、

「もしやりたいことがあって張昌儀に依頼したことがあった者には、そのことを許可する権限を与えるので、好きなようにしていただきたい」

と命じたのであった。

其蠧政也若此。

その政ごとを蠧(むしば)むことや、かくのごとし。

当時、彼らが政事をむしばむこと、このようであった。

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と、いうことです。おれたちももっと思いのままに生きたっていいんじゃないか、て、そんな感じしてこねー?おれたちはやりたいことをやるために生まれてきたハズなんだからさ。レッツ、フリーダム!

唐・張鶩「朝野僉載」より(「太平廣記」巻243所収)。

 

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