平成25年4月13日(土)  目次へ  前回に戻る

 

「ああ、ヒドイ目に遭いまちた」

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南伯子綦と肝冷童子が4月9日に食べた木の実は、それを口にすると

則口爛而為傷、嗅之、則使人狂酲、三日而不已。

すなわち口爛れて傷となり、これを嗅げばすなわち人をして狂酲せしめ、三日にして已まざるなり。

口が炎症を起こしてただれ、またそのガスが呼吸器に入ると、人を酩酊させてしまい、三日ではまだ正気に戻れない。

というすごい毒の果実だったのです。

「いやあ、まいったねえ。三日間前後不覚だったからね」

「おいらはコドモだから仕方ないでちゅが、南伯子綦のおじたまはオトナのくせに見境がつかずに食べてちまったのでちゅから、なおいけませんよ」

「いやあほんとだねえ、うんうん」

といいあいながらも、二人とも酩酊している間の陶酔感を思い出すと、おのずとにやにやしてしまったものでございまちゅ。

ということで、南伯子綦曰く、

此果不材之木也、以至于此其大也。

これ果たして不材の木なり、以てこれその大なるに至れり。

こいつは要するに、役立たずの木なのだ。役立たずだからこそ、こんなに大きくなれたのだ。

誰にも利用できない材は放っておかれ、のびのびと育つのである。

嗟乎、神人以此不材。

嗟乎(さこ)、神人はこれを以て不材なり。

ああ、だから神聖なる人たちは才能が無いものなのだなあ。

才能が無いと他者に利用されませんから、大いなる道にたどりつけるほどに精神的にも成長できる、ということなのである。

「なるほどねー」

とおいらが相槌を打ちますと、南伯子綦、得たりや応、とばかりに曰く、

―――宋に荊氏という土地がある。橡や柏や桑の木のよく育つところである。

その地に育つ木は、

幹の太さが両手の指と指を合わせて囲むことができるほどになると、サルの檻を作るために伐られてしまう。

幹の太さが指を広げた幅より三倍か四倍まで大きくなったものが残っていると、家の棟木にされるために伐られてしまう。

幹の太さがさらに指を広げた幅より七倍も八倍も大きくなったものが見つかると、富貴の家の棺桶をつくるための板を作るために伐られてしまうのだ。

故未終其天年、而中道之夭于斧斤。此材之患也。

故にいまだその天年を終えずして中道の夭を斧斤においてす。これ材の患なり。

このため、本来の寿命を保つことができず、中途でマサカリやオノで伐られて若死にしてしまうのだ。これは、才能あるがための患いである。

ところで、牛の額の白いもの、ブタの鼻が上を向いているやつ、人間で痔を病んでいる者。

この三者は、

不可以適河、此皆巫祝以知之矣。

以て河に適すべからざること、これみな巫・祝の以てこれを知れり。

河川の神のイケニエとして捧げるのにはふさわしくない、とされている。このことは、どこのシャーマン(巫)でも司祭者(祝)でもよく知っていることだ。

(わたしは知りませんでしたが、そうなのだそうです。)

額の白い牛、鼻が上向きのブタ、痔を病んでいる人間

この三者は不祥(不吉)であるということだが、実は不祥であるということはイケニエにされないのだから、

為大祥也。

大いなる祥(さいわい)なりとす。

ほんとはたいへんなシアワセ(大吉)なのである。 ―――――

「よう申されたでちゅよ、南伯子綦よ」

おじたまを褒めてあげて、それからおいらも言いました。

―――支離疏(しりそ)というひとを御存知でちょうか? 手足(支)が離れ、バラバラである、という意味の名前でちゅ。

彼のアゴはヘソのあたりまでめりこみ、彼の肩は頭頂部よりも高いところにあり、頭が上を向いているのに、五つの内臓はそれよりも上にあり、ふとももが両脇に引っ付いている、という奇形の姿であった。

しかし、彼は針と糸を使って縫製の仕事が得意で、これによって自分の食い扶持を稼ぐだけでなく、人に頼まれては太鼓を打ちコメを捲いてマジナイを執り行い、これによって十人の家族を養う収入を得ていた。

国家が征伐を行おうとして兵士を徴発するとき、彼は出征する兵士らの間で腕についたほこりを払っている。彼が徴発されることは無いからだ。国家が大いなる土木工事を行おうとして労働者を集めるときも、彼は集められることがない。一方、国家が病者に穀物を施すときには、粟と薪を与えられる対象から外されることがない。

夫支離其形者、猶足以養其身、終其天年。又況支離其徳者乎。

それ、その形を支離にする者すら、なお以てその身を養い、その天年を終うるに足る。またいわんや、その徳を支離にする者をや。

ああ、外見が無茶苦茶だ、というだけで、食べるに困らず、寿命を保つことができるのだ。内面が無茶苦茶であればもちろんのことではあるまいか。

・・・・・・・そしておいらたちは顔を見合わせて、

「うっしっしっしー」

「わははははー」

と大笑い。おいらたち二人はご機嫌で帰ってきたのであった。(まだ木の実の毒から醒めきっていなかったのかもしれません。)

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「荘子」人間世篇第五章でちたー。ほんとに三日ほど頭痛くて(・・・まだ痛いが)。

ミサイルはどうするのかな? インフルは? 果たして現代人のみなさまは天年をまっとうすることでできるのでありましょうか。

 

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