平成24年11月12日(月)  目次へ  前回に戻る

 

朝ちゃんと起きなければいかんのがつらいところです。

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清の康熙年間のことだと思いますが、ある県でのできごと。

有猟人縛一虎献於令。

猟人の一虎を縛して令に献ずるあり。

とある狩猟者が、一頭のトラを生け捕りにして縛り上げ、県令に献上しに来たのであった。

「ああ、これは立派なトラでございますなあ」「県令さまがご立派だからのう」

取り巻きどもは県令を称めそやし、

斂謂令仁政所致也。

斂(おさ)めて、「令の仁政の致すところなり」と謂う。

生け捕りのトラを檻に閉じ込めがら、

「県令さまの仁愛の政治のおかげで、害をなすトラもおとなしく捕まったのじゃ」

と言い囃した。

県令もまんざらではない。

「いやいや、みなが協力してくれるので、天子さまにも御報告できる立派な政治ができたのじゃ」

と取り巻きどもを逆に讃える。

そんなとき、一人、貧しいみなりの読書人が

「なるほど、これはめでたい。めでたいので、わたしが「仁愛ある政治の歌」を歌いましょうぞ」

と歌いだした。

虎告相公聴我歌。   虎は相公に告ぐ、「聴け、我が歌を。

相公比我食人多。   相公は我に比して食人多し。

相公若果行仁政、   相公もし果たして仁政を行わば、

我自双双北渡河。   我はみずから双双として北のかた河を渡らん。」

トラ(に代わって、わたし)が大臣さま(←ここは県令を謂う)に申し上げる、「どうぞわしの歌を聴きなされい。

大臣さまはこのわしよりもたくさん人を食うようなことをしておられましょう、

大臣さまがもしも仁愛の政治を行っておられるのなら、

わしらはみずから二頭づつ相並んで、あなたの領地を荒らすのを避けて、北の川を渡ってどこかに行ってしまっていたじゃろうに」

はじめ祝い唄だと思って唱和していた者たち、みなついに口を閉ざして俯いてしまった、ということだ。

此詩乃古楽府之遺也。

この詩、すなわち古楽府の遺なり。

この詩は、漢代の「古楽府」――人民の心を正直に歌った歌――の精神が、ゲンダイに生き返ったものであるといえよう。

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清・金埴「不下帯篇」巻六より。

県令やお追従者が気分を害するのはどうでもいいが、ちょっと狩猟者がかわいそうな気もしますね。

今日は佐渡山豊を聴いてきた。プロテスト・ソングというやつに分類されるのであろう。

 

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